06 ダブルトリプルクアドラプル

あかりちゃんの姿よりも早く志波を確認したせいか、いち早く猫を被った佐伯は一瞬で気配すら消していた。
だが、触れられないからといって自分からのこのこ出て来る辺りがバカで、小声ではあるものの地が出ている。そして、そんな佐伯をあかりちゃんはガン無視だ。

「そうだ!鈴香ちゃんも一緒に花火見ようよ!」
「いっ?いやあ、海野さん。君達は君達で行きたい場所もあるだろうし!僕達は別行動で。あははは。」
「なに言うとんのー。花火に来たんやで行く場所は同じやんか。なぁ、あんたらも鈴香らが合流でええよな?」
「いいんじゃねぇか?変わったメンツだけどな。」
「ああ。」

俗に言うプリンススマイルとやらを浮かべた佐伯の引き攣り笑いを壊すように、はるひが割って入り、自らの連れである二人を見上げる。
迷惑な事に、今までの一連の佐伯をすっかり忘れてしまっている。

そんな事を知らない針谷の方は、どうでもいいといった感じで面倒そうに頷き、壊れかけを通り越し、壊れた佐伯を知っている志波はいつものように単語。だけど、分かりにくい一見無表情な瞳の奥は、あの時と同じだった。

―――悪夢再び。

容易に思い起こせる体育祭。
佐伯にはちゃんと説明したはずだが、このバカの頭は見た目と同じ。その記憶すら消して、違う何かにすり替えている可能性が高い。

「じゃあじゃあ!屋台から行こうよ!ここの夜店は凄いんだって!私、楽しみにしてたの!」
「あー……そうね。あかりちゃんも初めてよね…。」

否定も肯定もしない内に腕を絡められ先頭に立たされる。
ここで否定でもしようものならあかりちゃんが明後日の方向の突っ込みで走り始める気がして、早々に諦めて歩幅を合わせた。

余計なフラグは立てたくない。

ここでは何がスイッチになるか皆目見当も付かないのだから、慎重に慎重に。

「あかりちゃん。その浴衣、凄く似合ってるわね。」
「本当?!」
「ええ。柄もだけれど、色があかりちゃんに似合うわ。ねぇ?佐伯?」
「だから、なんでこうなるんだよ。………あ?」

はるひや志波は別として、針谷が居たからなのか、空気となって後ろを付いて来ているはずの佐伯を何気なく振り返る。

ブツブツと呟いていた佐伯不機嫌そうに顔を上げ、じっとあかりちゃんを見つめた。

もしかしたらもしかして。

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