05 ダブルトリプルクアドラプル

人波を縫うように生えた手が近付く。勿論、隣の木偶の坊も同じように。そして、その波から漸く声の主が姿を見せた。当然だが浴衣姿だ。本来なら私の隣に居るやつの好感度がうなぎ登りになるはずの、水色の生地にピンクの大輪。可愛い。惜しいくらい可愛い。

「偶然だね!鈴香ちゃんも来てたの?」
「本当にね。でも、あかりちゃん…なんだか珍しいメンバーなのね。」

木偶の坊。もとい、志波とあかりちゃんの組み合わせは想定外。そして、あかりちゃんの後ろに居るメンバーも、予想外といえば予想外だった。

「な、なんか成り行きでそうなってな!なあ、あかり?」
「あの後、二人と屋上で会ったの。そうしたら、志波くんがどうせならみんなで行かないかって。ね!志波くん!」
「ああ。」

ぐいと後ろから出て来てしどろもどろなはるひ。
内心飛び上がって喜びたいだろうに、さも迷惑そうな口振りだ。だが、堪えても表れる口元の緩みと、気合の入った浴衣姿で本心が丸分かりだった。

「あんた、案外社交的なのね。で、そちらの彼も同級生って事でいいのかしら。」
「あー。鈴香はハリー知らんかったっけ?」
「ハリー?」
「そうそう。ほんまは針谷…。」
「ハリーだ。」

一匹狼なイメージのあるこいつがと一瞬驚くものの、ここでの志波は少し…いや、かなり風変わりだった。もしかしたら、また何か面白いものを見つけたのかもしれない。
それは置いといて、まだ一言も発していない微妙に不機嫌そうなもう一人に目を向ける。
赤いツンツン頭。耳にはリング状のピアス。やたらキツネ目の私と変わらない身長という意味で小さい男は、ゲーム上では知った人物。
そして、名前についてのリアクションも同じだった。

「えーっと?」
「ハリーだっつーの。オマエ、城峰だろ?コイツから聞いてるぜ。」
「何を聞いてるか気になるところだけど…よろしくね。」

少し、いや、かなりホッとしながら針谷幸之進ことハリーを見つめた。
彼は色々大丈夫なようだ。
これまでの経験上、葉月や志波のように第一印象が普通な場合もあるけど…いや、そういえば、あのバカ白髪も最初は普通だったか?と思いかけて、うっかり忘れていた事に気付いた。

「んん゙っ。えーっと、君達も来ていたんだね?偶然だなぁ。」
「あ。佐伯くん居たんだ。ぜんっぜん気付かなかったよ〜。」
「おまえ、わざとだろ。」

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