04 ダブルトリプルクアドラプル

……帰ってもいいだろうか?

右へ左へ。
人の波を避けつつ辿り着いたこの場所で繰り広げられるのは、いつだったかのデジャブ。そして、私の感想も変わらない。

目印の時計台の下。浴衣姿の佐伯が落ち着きなく辺りを見渡している。
以前に待ち合わせた時からさほど時が過ぎたとは言えないけれど、あれからまだ誰とも出掛けてないんだろうか。もちろん、誰とはあかりちゃんを指してるわけだけども。

「……お待たせ。待っ…た?」
「いやっ、俺も今来たばかりだから!」
「……そう。それならよかった……。」

このまま何も見なかったふりをして立ち去る事も出来るけれど、放っておいたら朝まで待ち続けそうな雰囲気に、仕方なくそばに近寄る。
そしてこんなところでもデジャブ。同じ会話を繰り返した気がしない事もない。

「浴衣…なんだな!」
「そうね。浴衣以外のなにものでもないわね。」
「なんかいいよな。こう…黙っていても同じ雰囲気の格好って。」
「そりゃあ、行事が行事だから。私じゃなくても、ほら……あのおじさんも佐伯と同じ。よかったわねぇ。」
「ちがっ!そういう意味じゃなくて!」

顔を上下に上げ下げしながら私を見つめる佐伯。やけに満面の笑顔だ。
鬱陶しい。そして腹立たしい。
日常ではない今日なんだから、特別な事もない。それを証拠に、目に止まった道行く中年の男性を軽く指差すと両手を握りしめ否定した。

おまえはぶりっ子な女子か。

鬱陶しい。そして益々腹立たしい。

「それで?ずっとこうやってるの?」
「い、いや。ここから少し歩くんだけど――。あ、ほら。」
「なるほど。流れに乗って行けばいい――って。……あ。」
「えっ?」

進展しない会話は不毛。
漸く佐伯も気付いたのか、慌てて目の前を行く殆どの人々の向いた先を指差した。
自分達と同じ格好をした人々の流れは同じ方向を向いている。これは分かりやすい。
その中に見覚えのある視線を感じて探そうとすると、思わず声が漏れた。

―――これも分かりやすい。

そして佐伯の問いかける声に重なった。

「鈴香ちゃーーーん!」
「げっ。なんであいつがここに。」

聞き覚えのある声と、その持ち主であろう手が人の波の中で大きく振られている。が、本人の姿は見えず。
代わりに、まるで目印のような大きな図体が隣にそびえ立って、その場所を示していた。
あれが居ればそうそう迷子になる事なんてないだろう。便利といえば便利なのかもしれない。

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