03 ダブルトリプルクアドラプル

ソファーの上に次々と並べられるものに顔が引き攣る。
一般的に言えば、それはお約束のものだ。
でも、私はこれっぽっちも思い浮かばなかったし、なによりそんなのを着ていたら暑いに決まっている。

「まさかだけど…着て行けとか言わないわよね?」
「もちろん言うに決まってるじゃないですか。貴女だって毎回着たんでしょう?」
「それはゲームの中の話。…って、なんであんたが知ってるの。」
「そりゃあ、リサーチ済みですから。とにかく、これ、着てくださいね?着付け出来ますよね?」

よく考えれば、全く無知なままで私をここに連れて来たとは思えない。でも、聞きたくもなかった事実をさらりと告げられるのも嫌なものだ。
私の複雑な思いを理解しているのかしていないのか、広げた浴衣一式を私に押し付け寝室へと押し込む。

「こんなの着たら暑いじゃない。しかも、こんな上物…どこから持ってくるのよ。」

ブツブツと呟きながら、改めてベットの上に広げる浴衣一式。
極々薄いグレーの生地に、濃紺の染料で描かれているのは蔓状の葉に小さな小花。それが胸元辺りまで続いていて、花の脇には濃紺を薄めた青にも紫にも見える蝶が羽根を広げている。
帯は濃紺よりも黒に近く、片面が浴衣と同じ色合いなせいで、帯として巻いたらかなりシックになるだろう。

「って。……私、出来ないわよ?」

浴衣や着物くらい着た事はある。でも、それは、着付ける人間がいるから着られるだけであって、私にそんなスキルはない。
そういえば、あかりちゃん…どころか、ここの男性陣も当たり前のように着ていた。よく考えたら、羽学陣も当然のように。
もしかして、この街に住む全員が着付けくらい簡単に出来たりするんだろうか。まさか、国家資格とか持ってたりして。

「そんな訳ないわよね。」

きっと、あかりちゃんは母親に着付けてもらったとかで、男共は適当に結んでいるだけなのだろう。
そんな冗談みたいな事はあり得ないと何気なく浴衣に手を伸ばし布地に触れた途端、自分の意志とは関係なく着付けを始めた腕に、私の想像もあながち間違ってはいないかもと愕然としたのだった。

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