01 ダブルトリプルクアドラプル

真っ青な空。ジリジリと肌に照りつける太陽。
世界を二つに分かつように横切る一筋の飛行機雲。そしてむせかえるような熱い空気。
夏。紛れもなく真夏。

「なあ、鈴香。聞いとるん?」
「……夏、だわね。」
「話、聞いてないやろ。ちょっとーどうしたん?」
「ねぇ。どうして私はここにいるのかしら。」
「それは……登校日なんやで当たり前や。」

夏まっさかりだというのに、ここの学生達は紫外線が気にならないのか、真っ昼間の屋上で思い思いにくつろいでいる。
日焼けをものともしない、これが若さというものなのか。そして、夏休みだというのに何故登校日というものがあるんだろう。っていうか、この学校ってあったっけ?

「夏休みなんだから、全部休みじゃなきゃおかしいでしょ。詐欺でしょ。なんでこのくっそ暑い時に外に出なきゃならないのよ。」
「鈴香ちゃん鈴香ちゃん。顔、顔、怖くなってるよ。」
「やーかーらー。二人とも話聞いてや。」
「はいはい。で、話って?」
「あんなあんな?」
「あー…暑いからパス。」
「まだ何も言ってないし!まったく聞いてへんやん!」

どうせ彼女の事だから買い物だのケーキ開発だの、炎天下の中出掛ける話なのが安易に想像出来る。押しが強い彼女に押し切られる前に次の言葉を遮る。
そうでないと、どんどんテンションが上がっていき口を挟めなくなるのだ。

「はるひちゃん落ち着いて。それに鈴香ちゃんも、ちゃんと聞こう?ね?」
「……。で?」
「やからな?もうすぐ日曜やん?日曜ってゆーたらアレやろ?花火大会やろ?みんなで行かへん?」
「あのね。そういう場所はね?女同士が行く場所じゃないの。だからね?いい人誘いなさいな。」
「いっ!い・い・い・いい人なんておる訳ないやん!」
「そう?いるでしょ?気になる男のひとりくらい。せっかくの夏休みなんだから、冒険のひとつやふたつやみっつくらい頑張ってみなさいな。……ってわけで、私はパス。」

上擦ったまま両手を顔の前でバタバタと振り回す。
彼女の頭の中に浮かんだ人物と私が思い浮かべた人物は間違いなく同じなんだろう。
なんて分かりやすい。そして好都合。
混乱している彼女の肩を励ますように笑顔で数回叩いてから校舎に続く扉に向かって歩き出す。
上手く言いくるめられたと気付く前に、そしてこの暑い屋上から一刻も早く、ここよりは涼しいはずの教室へと逃げ出したのだった。

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