28 夏にご用心

営業が終わったからだろうか。初対面の時よりか口調の柔らかくなった彼がアレと指を指した先には、テーブルの上にぽつりと置かれた一つの瓶。
中身の減っていないそれは、間違いなく光輝が持ってきたもの。

「どういうものか知ってる?」
「まあ。そのままじゃ飲まないってくらいなら。」
「知ってるなら大丈夫よね?持って帰っていいわよ?佐伯に渡しても仕方ないし、私が持って帰ったらうるさいのがーーー。」
「誰がうるさいんですか。」
「あら。早かったのね。」

不意に覆い被さる影と声。横を向けていた顔を戻すと、目の前に声の主である光輝が立っていた。
あれからさほど時間が経っていないのにもうここに居るのは早すぎるが、それを指摘したところでいつもの台詞が返ってくるのは間違いない。だからあえてスルー。

「貴女を一人に出来ないでしょう?さ、帰りますよ?」
「あんたはオカンか。」
「はいはい。オカンで結構。荷物奥ですか?」

自分で決めたんだろう親戚だかなんだかの設定をすっかり忘れていつもの口調に戻った光輝は、店内とを分けるすだれ状ののれんを潜って姿を消す。
女物の荷物は一つしかないのだから間違えはしないだろうと、頬杖をついたまま、渡されたペットボトルに入った水を飲んでいた。

「さっきの人、もう帰ってきたのか?」
「ん。そろそろ帰るわね、っと。」

片付けを終えたらしい佐伯が日が傾いて薄暗くなった店内を覗き込む。
少し座ったおかげで酔いも醒めたかと立ち上がると、ふらりと足元がよろけた。

「まだ足元が危ないんじゃないか?もう少しここにいた方が……。」
「そろそろ冷えてきますから帰ります。風邪でも引かれたら大変ですし。」
「それならウチの店がそこですし休むベットもありますから。帰りなら、俺が、責任をもって送りますし。」
「佐伯さん。貴方まだ学生でしたよね?大丈夫です、私が、車で、ちゃんと送りますから。」
「ぐっ……!」

慌てて私を受け止めた佐伯を、いつの間にか荷物を持って戻った光輝がやんわりと引き離すように肩を抱く。
視界に入る軽い火花が散ったような攻防戦。

「はいはいどっちもうざい。じゃあね。二人とも。」

この場所に居るのが私ではなくあかりちゃんなら、わくわくする三角関係。なんだけど、登場人物は私。そして、まったく関係ないはずの光輝。面白くも何ともない。
肩に回された光輝の手を払いのけ、片手に持たれたバックを引ったくり、二人を置き去る。

ほんっと。何考えてるのか知らないけど、付き合ってられない。

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