25 夏にご用心

「昼間の芋の子を洗うって感じの景色も壮観で面白いけど、今みたいなもの悲しい雰囲気もいいわね。」
「ああ。海は静かな方がいい。」

隣を歩いていた佐伯が突然、フ。と、意味ありげに目を細め、髪を靡かせながら海を見つめる。
なんだか何処かで見た事のある表情だ。

…なんだっけ?

まだふわふわと思考が一定しない頭を回転させる。

ああ!あれだ。
―――三年目の1月。
こいつが某名台詞を叫ぶイベ。

それがどうしてこんなところでフラグが立ってるんだ。しかも相変わらず台詞が違う。
まあ、あの言葉を言われたらこっちが堪えられないんだけど。

「いや。そっちじゃくてあっち。使用前使用後みたいな、人生の縮図っぽくない?」
「なに?それ。」
「んー…適当?」
「意味分かんないし。」
「でしょうねぇ…。」

まさかこんなところで何の脈絡もなく叫ばれはしないだろうけど、この佐伯ならやりかねない。
それだけの実績が僅か数ヵ月にある。

自分でも意味の分からない、唐突に浮かんだ言葉を口にしながら、センチメンタルモードに入った佐伯の視線を現実に引き戻す為に砂浜を指差した。

「あの、さ…。」
「そうだ!あんたなんでここに居るのよ。」
「…居たら悪いのかよ。」
「当然でしょ。あかりちゃんはどうしたのよ。ちゃんと送って行ったんでしようね。」
「行った。」
「本当なの?帰って来るの早すぎるでしょ。」

そういえば、コイツはあかりちゃんを家に送っていったはず。

主人公の行く場所行く場所、まるで瞬間移動でもしたかのように現れるゲーム上でもない限り、今、この時間に佐伯がここに居るはずがない。
あるとしたら、佐伯が複数いる事になる。

……コイツが二人…いや、三人。

私が知っている佐伯ではない以上、それすらも有り得そうだが、イヤだ。とてつもなくイヤだ。

「だって、いつものとこまでだし。」

休みの日に外に出掛けて出会う。しかも場所を変える度に、何故か衣装まで変えた、そして何処か壊れたコイツがいる。

………悪夢でしかない。

軽く想像出来る光景を浮かべ、それを振り払うように頭を振ると、予期せぬ、そしてほんの数ミリも悪びれない声に思わず顔を隣にいる佐伯に向けた。

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