24 夏にご用心

三者…いや、四者四様。私達は波に揺られ、佐伯は後退りの状態で固まったまま。そして、振り返りざまに佐伯を指差し制止した光輝。

「………。続き、ないのかしら。」
「なにかオチ的なものがあると思ったけど、そうみたいね。」
「それじゃあ、帰りましょうか。鈴香が元気そうで安心出来た事だし。」
「もうそんな時間?」

この先に何かあるのかと待てども光輝はピクリとも動かず、洋子と顔を見合わせると岩場にかけた手に力を込め、身体を浮かせた。海に浮かんでいたのはそう長くない時間だったのに、やけに身体が重く感じる。

「別れるのが寂しいって泣いてくれるのかしら。」
「やって欲しいならやってあげるわよ?」
「………。いや、いいわ。想像したら怖い事になったから。」
「なに想像したのよ。」

「ちょ!!二人とも我々を無視しないでくださいよ!って言うか、びしょ濡れじゃないですか!」

会話を続けながら固まったままの二人の脇をすり抜けると、光輝が漸く我に返った。
佐伯はこの状況についてこれないのか、まだ固まったまま…というより空気だ。
ここに来てからまだ一声しか聞いていない。まぁ、別にどうでもいいんだけど。

「じゃあ、仲井くん?そろそろ帰りましょうか。」
「ま――待って下さいよ!その姿のままのつもりですか!?」
「あら。大丈夫だって言ってたわよ?色々あるだろうからって、鈴香が。じゃあね?しっかりやんなさいよ?」
「はいはい。」
「戻ってきますから勝手に帰らないように。貴女は酔っぱらいなんですからね?いいですか?」
「あー。はいはい。」

先に立ち、さっさと歩き始める洋子の後を小走りで追い掛ける光輝。
その姿はどう見ても上司と新人部下だ。
たぶん。いや、確実に光輝は最初の設定を忘れているに違いない。

どんな設定だったのかちゃんと知らないけど。

「なあ。あの人、あんなにびしょ濡れで大丈夫なのか?」
「平気なんじゃない?何とかするでしょ。」

少しずつ離れて行く洋子と光輝の背中。
岩場から砂場に降り立つと、二人の足跡が続いている。
夕焼けで赤く染まった海岸は何時の間にか海水浴客も疎らになっていて、波が光に輝いていた。

まだ火照った身体に涼しくなってきた風が当たり気持ちいい。

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