23 夏にご用心

「んはっ!!」
「あははははっ!」
「ちょっと何するのよ!」
「洋子こそ色気ないじゃない?」

頭まで水中に潜った洋子が浮かび上がり、髪を掻き上げて怒る。
人に文句を言ったわりには豪快な息の吸い方。

「あー…もう。着替えなんて持ってないわよ?どうするのよ、これ。」
「いいんじゃない?乾かせば。それに、帰りはあのタクシーでしょ?普段から色々な客がいるわよ。酔っぱらいとか、色々。」
「無責任なんだから。」

やっぱりこうやってる時が一番気が楽。
今までが楽しくなかったと言えば嘘になる。思い返せばそれなりに楽しかったんだろうけれど、洋子といる時のような、私が私で居られるような安心感はない。

「ねぇ。どうして私だけなのかしらね。」
「ホームシック?」
「そんなのじゃないけど…話し相手いないじゃない?ここ。」
「あら。ずいぶん懐かれてたじゃない。あの女の子に。」
「あかりちゃん?あれは毛色が違う私が珍しいだけでしょ。中身は年上なんだし。」

プカプカと背で海に浮かぶ私の横で、同じように洋子も浮かぶ。口ではなんだかんだと言いつつ、濡れた事は全く気にかけてないようだった。

太陽はかなり傾いて空がより青く感じる。
水に浮かんでいるからだけでなく、隣に洋子がいるから肩の力が入らず寄せる波のように穏やかな気持ちになれた。

「三年間なんてあっという間よ。いい休養だと思って、楽しみなさい?」
「……三年休む事を休養って言わないわよ?」
「あら。あっちでは数日なんでしょ?だったら充分休養なんじゃない?」
「適当なんだか―――。」

「あああーーーっ!!!―――なにしてるんですか!!」

怒号が入り交じった悲鳴に二人で岩場に顔を向ける。
そこには、片手で私達を指差し、もう片手で頬を包んでワナワナと打ち震える光輝。
どうやってこの場所を見つけ出したのか―――という疑問は、真後ろに立って目を丸くして見開く佐伯がいる事で解消された。

「………。あんた、オカマだったの?」
「ダメよ、鈴香。人の性癖に文句言っちゃ。」

「えっ―――!?」

「なに言ってるんですかあなたは!あと誤解されるような事続けない!そこも真に受けて引かない!」

ボソリと呟く私を戒める洋子。
私の言葉に一歩後退りする佐伯。
そして、わざわざ一つ一つに突っ込みを入れる光輝。

微妙な空気が辺りに漂い、岩場に寄せては返す波の音だけが辺りに響いた。

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