22 夏にご用心

冷たい水が体中に纏わり付く。熱に冷やされた肌が一気に冷えて締まる。
まるで、お湯の中に入れた氷になったような、そんな感覚。

「ぶはっ!」
「大丈夫?って、なーんか色気ないわねぇ。」
「なにがよ?」

一度沈み込んだ身体が浮かび上がる。当たり前といえば当たり前だけど、海水ってすごい。
水面から顔を上げ、大きく息を吸い込んだ瞬間、眉を寄せた洋子と目が合った。

「なにがって、今のはないでしょ。ぶはっよ?言っても無駄なのは分かってるけど、もっとこう……せめて可愛らしくできない?」
「無駄って分かってるんじゃない。出来るわけないでしょ?私は私よ?変わったわけじゃないわ?」
「そりゃあね。あんたがどこまで戻ったところで、あんたには変わらないんだけど……って、大丈夫なの?」
「だから、なにがよ。」
「最後の一杯、効いたでしょう?」

足を組んだ洋子が自分の腕で頬杖しながらクスリと笑う。

やっぱり確信犯。

あっちでは、事ある毎にやれ飲み過ぎだのなんだと騒いでたくせに。

「あれはやりすぎだって。何かあったらどうするつもりよ。」
「あら。私には関係ないもの。それにここはゲームの中。現実とは違う。あんただってそう思ってるでしょう?」
「まあね。」
「で?久しぶりに酔っ払った感覚は?」

やっぱりこれもお見通し。

図星をつかれて返す言葉がなくなった私は、波に背を任せる。

ふわりふわりと波に揺れる身体。頭の中が全身に広がって海と繋がっているような錯覚。
目を閉じると、まるでゆりかごの中で揺られているように気持ちよく、そして落ち着く。

「寝ないでよ?」
「寝ないわよ。……ねぇ。」
「なあに?」
「4ヶ月経ったのよ。」
「あー…。時間の速度が違うんだっけ?」
「さあ。企業秘密らしいわよ?それより……。」

浮かせていた体勢を戻し、波に揺られて離れてしまった洋子の元へと泳ぎ出す。
黙ってしまった私に何事かと気になったのか、洋子は岩場ギリギリの所でしゃがみ込んで待っていた。

「どうしたの?悪酔いして―――!?ちょっ―――!!」

岸まで辿り着いた私を心配そうに見下ろす洋子の腕を取り、ぐいっと引っ張る。

バランスを崩した洋子は呆気なく大きな波しぶきを上げ海に落ちた。

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