20 夏にご用心

「………なにニヤニヤしてるんです。飲み過ぎですか?」
「飲ませ過ぎたのはアンタがでしょ。スピリタスがどんなのか分かってる?90度よ?一杯でも相当よ?まんま飲むシロモノじゃないのよ?」
「あ、あれはこの銘柄を買って来いって洋子さんが―――って、そんなにあるんですか!?」
「あるの。」
「うわあああ。……あの人、大丈夫でしょうか…。」
「さあ。大丈夫なんじゃない?」

洋子を手伝い始めた光輝がジョッキを手に一人アタフタと始める。

銘柄だけを頼りに買いに出掛け、それがどんな代物かも確認しないなんて、子供のおつかい以下じゃない。

頼んだはずの張本人である洋子は、聞こえないフリをしながら片付けの真っ最中、テーブルに残った数個のジョッキをトレイに乗せていた。

「さて。そろそろ本来の目的を果たさせて頂きますね。私は家政婦に来た訳じゃありませんから。」
「あ、はい。そうして下さい。でも時間は―――。」
「厳守。当然守ります。では、後は宜しく。―――鈴香、行きましょうか。」

自分が着けていたエプロンを外し、光輝の首にかけた洋子がジョッキが乗ったトレイを渡す。口調がさっきまでのフランクなものと違い営業的なものに変わっていた為か、光輝ものほほんとした表情を変えトレイを受け取り頷く。

「私さ、行ってみたいとこがあるんだよね。たぶん、あの先だと思うんだけど。」
「いいけど……あんた、いいの?日焼けするんじゃない?」
「仕事しないんだからいいでしょ?第一、海で日焼けなんて貴重な経験、ここでしか出来ないんだから。」
「後で泣いても知らないわよ?……って言っても、後の事は分からないのよねぇ……残念。」

海の家を後にして、家族連れやカップルが思い思い楽しんでいる姿を見ながら、真っ直ぐ行った先にある岩場を目指して洋子と歩く。まったく泳ぐ気がない洋子と波打ち際に行ったところで楽しい事はないのは目に見えてる。

それならば、画面で見ていた場所に行ってみたいと思うのが人の性。というか、アレに連れて行ってもらうのが嫌なだけだけど。
万が一そうなったら「ろくな事にはならない」と、この短い期間で嫌というほど経験している。アレが居ない今があそこを見る最大のチャンスであるのは間違いがなかった。

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