19 夏にご用心

「帰るまでにまた絡まれないとは限らないでしょうが!ここにはあんなのがゴロゴロしてるくらい分かるでしょ。いいから、あかりちゃんを送ってくの!」
「そうですね。か弱い女の子にはかなり恐怖体験だったでしょうからそれがいいと思います。ここが心配とおっしゃるなら僕と彼女もいますしね?あ。―――誰かさんは最初から使い物になってないでしょうから頭数には入ってません。大丈夫です。」
「悪かったわね、使い物になってなくて。それと、か弱くなくて。」
「あははは〜。誰もそんな事言ってないじゃないですか。さささ、二人とも着替えて。ここは任せてください。」
「で、でも……。」

さらりと失礼な事を言う光輝をじろりと睨み付けると、佐伯とあかりちゃんの背中を押しながら店の奥に消えていく。まだ佐伯がなんとか言っていたが光輝は聞く耳を持たず、いつも通り、問答無用の強引さだった。

「ご苦労様。これでも飲んでちょっとゆっくりしてなさい。ここ片付けたら相手してあげるから。」
「……私はそんなに気が長くないわよ?」
「はいはい。分かってるって。」

店の奥へと消えていく三人の背中を見送っているとコトリとテーブルに冷たい水の入ったコップが置かれる。もう一度椅子に座り直すと、空になったジョッキを手際よく片付ける洋子を眺めていた。

「それじゃあ、すぐに戻ってきますのでよろしくお願いします。」
「ちゃんと送り届けてからですよ?」

私と同じように水着の上から服を羽織って来ただけなのか二人の着替えは早く、佐伯と光輝が並んで店の奥から出てくる。その後ろからあかりちゃんが顔を覗かせ、私の前に立った。

「あの…っ。鈴香ちゃん。」
「大丈夫、大丈夫。ここは任せてゆっくり休んで?また連絡ちょうだい?」
「うん。本当にありがとう。」
「佐伯?ちゃんと、家まで送るんだからね?途中でもういいだろなんて帰って来たら……分かってるでしょうね。」
「わ、分かってるって!ちゃんと送ればいいんだろ?」

案の定、途端に慌て出す佐伯。

ここから離れれば、そんな奴等はいないだろうから大丈夫。なんて考えていた事がバレバレ。
私はそんな意味で送れと言っている訳じゃないし。まったく、女心が分からないというか、ガキんちょというか。

でも、これで二人の距離が縮まって、いい感じ……本来の、本当の二人が見られるかもしれない。

ほら、雨降って地固まるみたいな。

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