16 夏にご用心

少しずつ早くなるペース。
並んでいく空になったジョッキ。
最初は無関心を装っていた他の客達の会話も聞こえなくなったところをみると、この勝負の行方が気になるのだろう。

シンと静まり返った店内に流れる、放送局すら知らないラジオが流す聞いたこともない夏っぽいポップミュージックだけが響く。

「ただいま戻りましたぁ。―――うわっ!なんなんですかこれは!」

そろそろ手を変えたい。そう思いながらビールをあおっていた所にタイミングよく現れる光輝。
走ってきたのか額にはうっすらと汗が浮かんでいた。そして片手にはビニール袋を下げ、もう片手には小さな茶色の紙袋を抱えている。

「あ!―――えーっと…。これでいいんですよね?――じゃあ、ちょっと失礼して――。」

普段の口調戻っていた光輝だったが、私の顔を見た後当初の設定を思い出したのか、誤魔化すように洋子に袋の中身を見せ、そそくさと厨房の中に消えていく。

「はーーーい。お邪魔しますね〜。そろそろ飽きたでしょうから、味を変えてみましょうかぁ。あ、嫌とか言いませんよねぇ?彼女と違って貴方達は男性ですから、これくらいは平気ですよねぇ〜?」

ニコニコと愛想笑いを浮かべ、片手には小さなグラスを3つ乗せたトレイを持ち、もう片手には透明の細長い瓶。ラベルに書いてある銘柄部分は光輝の掌で隠され見えなかったけれど、ちらりと見える白いラベルの緑のラインとそれよりも濃い緑のキャップでそれが何かが見当がついた。

こんな物を買ってくるのは洋子の入れ知恵ね?っていうより、よくこんな物があったわね…こっちに。

手っ取り早く終わらせたいのは私もだし、効果的ではあるだろうけど、一足飛びにそれとは。

あっちの私ならいざ知らず、こっちの私は禁酒中だっての。

ジロリと睨み付けると素知らぬ顔をする洋子。完璧な確信犯。

「光輝ちょっと待って。―――佐伯、ここに炭酸水ってある?」
「え?――ある、と思う。ちょっと待ってて。」

これがどういう物か知らないんだろう光輝が、小さなグラスにいきなりそれを注ぎ込もうとするので腕を取って止める。

いきなりそれはマズイ。

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