15 夏にご用心

洋子に指示されたらしいアルバイトの大学生が、隣のテーブルにビールのジョッキを次々並べていく。それを私達の前に順番に置く洋子。
まるでわんこそば大会のような連携と一体感だ。

二人のバカ男それぞれの前に並んだ空ジョッキと私の空ジョッキはもちろん同じ。当たり前だけれど、相手より早く多く……なんて考えは持ち合わせていない。男達が飲み干した後、それも得意げな顔でジョッキをテーブルに置いた後。

そのタイミングを逃さずにまるで見計らったかのように私も置く。もちろんたまたまなんかじゃなくすべて計算ずく。同時でもなく先行でもなく、この僅かに後というのはじわじわと追い詰められる感じがしてかなり精神的にくる。
ましては相手は自分より年下なはずでおまけに女。ハイペースで飲み続けるこの二人はどう考えてもそんな場面に出くわしたはずもないわけで、相当なプレッシャーになっているだろう。

「いつでも降参していいんだぜ?ぶっ倒れてみっともない姿になりたくないだろ?」
「あら。とっても美味しいけど?そっちはもう限界?」
「んな訳ねぇだろ!これくらいで勘弁してやってもいいって言ってやってるだけなんだよ!」
「そう?限界じゃないならもっと飲めるわよねぇ?…楽しませてくれるんでしょ?」

勢いよく飲み続けたせいで顔は当然のこと、目まで血走り始めた二人のうち、最初から血気盛んな片方が私に絡む。

―――しめた。

男達に焦りが出始めたのをこの私が見逃すはずがない。
半分程ジョッキに残ったビールを飲み干すと、テーブルに置くと同時に余裕ならたっぷりとあるとばかりに微笑みを向けた。

その瞬間私の前に置かれる次のジョッキ。まだ飲みきっていない男達の前にも同じように追加する事を洋子はもちろん忘れない。
これがますますプレッシャーになる事が長年の付き合いで洋子には分かっている。さすが洋子。これこそ阿吽(あうん)の呼吸。

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