14 夏にご用心

私から受け取ったエプロンを付け、テキパキと動き出す洋子に唖然とする佐伯とあかりちゃん。そして洋子に何やら耳打ちされた光輝ががっくりと肩を下げ、次の瞬間私をじっとりと見つめる。

光輝が言いたい事は聞かなくても分かるだけに、知らん顔を決め込むと目の前のバカ二人に向き直った。

「こんなとこじゃなくてさぁ、どうせたなもっといいとこ行こうぜ?」
「いいとこ?」
「そうそう。もっと楽しめるとこにさぁ〜」

何を想像してるやら、ニヤニヤといやらしく笑う二人の男にツバを吐きかけたくなる気持ちを抑え、にっこりと笑う。
タイミングよく洋子が運んできたビールのジョッキを受け取り、男達の顔の前に掲げた。

「そうね。私に勝てたら付き合ってあげる。」
「あ?」
「お相手するって言ったでしょう?私が負けたらあなた達の言う通りに。でも…私が勝ったら…私の言う通りにしてもらうわ。悪い条件ではないでしょ?」

『それとも、勝てる自信がないのかしら?』と続けると、二人の男は洋子がテーブルに置いたジョッキを勢いよく持ち上げた。

「生意気な女だな!後で泣いても許さないからな!つーか、たっぷり鳴かせてやるから覚悟しとけよ?」

よほど酒に覚えがあるのか、それとも私が小娘だとバカにしているのか、自信満々な表情を浮かべる。

―――ほんっと…チョロいもんだわ。

派手にジョッキを傾け勢いよく飲み干し始める男達に合わせて私も唇をつける。
まるで安物のB級映画のシナリオ並の展開なのに、ご丁寧にも食い付く奴等も珍しいと呆れながらも、こっちとしては好都合とグッとジョッキを傾けた。

喉を通る炭酸と鼻を抜けるアルコールとホップの香り。
たった数ヶ月といえど久しぶりに味わうお酒に思わず唇の端が緩む。

―――でも、こう…もうちょっと種類と場所が…ねぇ?

半分程を勢いよく飲み干し、ちらと男達の後ろにある光を受けて水色に反射する海に目を向けた。
一般的には何の違和感もないのだろうが、夏、海、ビール、おまけに真っ昼間。
私の日常とはまったくもってかけ離れた、三拍子も四拍子も揃ったような健全なる雰囲気にふと手を休める。

ドンと新たなジョッキが洋子の手で置かれなければ、この呑気ともいえる雰囲気にチビチビと晩酌よろしくやりかねなかっただろう。

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