13 夏にご用心

「申し訳ございません。ウチのスタッフが何か…?」
「ああん?見りゃあ分かるだろ。このねーちゃんにビール引っかけられたんだよ!」
「それは申し訳ありません。このスタッフは今日からで…。」
「そんなの関係ねーんだよ。こっちは迷惑かけられたんだから、このねーちゃんには手酌でもしてもらわねーと気が収まらねーんだよ!」
「重ね重ね申し訳ありません。そのようなサービスを当店では致しておりませんので…。」

あかりちゃんの腕をがっちり掴んだ男の腕を佐伯が掴んだまま頭を下げる。
だが、腰を曲げたまま顔を客に向けている佐伯の目は、口調の割りには攻撃的だ。酔っ払いというより、新手のナンパのような男達に嫌悪しているといった方が正しいのだろう。

その証拠に、ビールを引っかけられたらしい佐伯に腕を取られた男の手前に座った、つまり私が店の前から見ていた方はニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべている。

しかも、ビールはテーブルの上に倒れているだけ。あかりちゃんにちょっかいをかけている男は、両足を広げてテーブルから溢れ落ちるビールを避けていた。

という事は、テーブルにジョッキを置いた瞬間腕を取られたあかりちゃんが吃驚して倒した…そんな感じだろう。
どう考えても、あかりちゃんの不手際ではなく不可抗力であり、この二人が飲み屋によく出没する勘違い野郎であるのは間違いない。

―――こういう手は使いたくないけど……仕方ないわね。

放っておけばこの先ますます面倒になるのは目に見えていて、溜め息をつくとエプロンを脱ぎながら佐伯に近付き腕に手を乗せた。

「佐伯?ちょっと下がって。」
「えっ?鈴香…?」
「ねぇ。あなたたち、相手ならこの子よりも私の方がいいんじゃない?」
「なんだ?…まあ、このねぇちゃんより、あんたの方が色気もあるし、な…?」

首筋に腕を差し込み、わざとらしく髪を靡かせて身体のラインを強調させたポーズを取りながら微笑むと、顔を見合わせた二人が途端に表情を変える。
私に席を譲る為か、いそいそと片方の男が席を立ち向かい側に座る。既にあかりちゃんの事も佐伯の事も頭にないようだ。

―――ほんっと、信じられないくらいバカだわ。

見た目の通り頭の中が空っぽと証明している二人のバカさ加減に呆れながら成り行きを見守っていた人物にエプロンを差し出す。

「洋子?フォローよろしく。」
「はいはい。お手柔らかにね?じゃあ、佐伯くん?彼女さんに飲み物でも飲ませて落ち着かせてあげて?」
「で…でも、鈴香は?」
「いいからいいから。あの娘に任せておいて?それから、仲井さん――?」
「―――やっぱりそうなりますか…。はぁ…仕方ないですよね…。では、行ってきます。」

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