11 夏にご用心

ここまで言えば引き下がるだろう、と最初に持ってきた半分ほど溶けた宇治金時に手を伸ばすと、どさりと隣に座る。

「ちょっと…どういうつもり?」
「俺も休憩。」
「あかりちゃんほっといていいの?」
「今は、客もいないからいいんだよ。」

ヤケクソといった表現がぴったりなほど派手に焼きそばを掻き込む佐伯は……はっきりいって邪魔。

店の中はたいして客はいないからあかりちゃん一人でも大丈夫なんだろうけど、ここにいられても困る。

『どうする気?』とばかりにやにや笑う洋子は完全に楽しんでるし、光輝にどうにかしてもらおうなんて最初から期待なんてしてないし。
まぁいいか、話してたところで佐伯が分かるはずもないしと無視を決め込み、改めて洋子に向き直る。

「で?洋子は今何やってるの?」
「ん?休暇2日目。のんびりやってるわよ?真夜中に突然飲み屋に呼び出す相方は旅行中だし?ふらりふらりと自転車に乗って出かけては、ここはどこだと電話してくる相方は旅行中だし?
朝方お腹空いたから牛丼食べに行こうと叩き起こす相方は旅行中だし?」
「わぁ〜、洋子さんの相方さんってフリーダムですねぇ〜。」
「…光輝、ウルサイ。洋子サンもそれはそれは羽を伸ばせてよろしいですわねぇ?」
「ふふん、そうでしょ?でも鈴香も楽しそうだけど?久しぶりにそんな顔見たわよ?」

頬杖をついてそっぽを向く私に、洋子は楽しそうに声を上げて笑う。

久しぶりに味わう空気はやっぱり心地よくて。ここが私の居場所なんだと改めて感じる。洋子と離れて早かったけど長かった気がする4ヶ月。…洋子の時間はまだ2日しか経ってないけど。

「あ、あの…お二人は鈴香とどういう知り合いなんですか?」

いつの間にか食べ終わっていたらしい佐伯が割り箸を皿に乗せながら洋子を見つめる。

これは……非常にマズイかもしれない。光輝は適当に誤魔化すだろうけど、洋子がそこまで詳しく話を聞いてるわけじゃないはずだし。

ここは私が割り込むべきか、機転がきく洋子に任せるべきか。

「ん?私達?あ〜、簡単に言えば鈴香が前に住んでた頃からの付き合い。ちなみに彼は身内。あやしいものじゃないから安心してね?」
「前に住んでたところ?」
「そうそう、一人でちゃんとやってるかどうか偵察ってカンジかしら。あ、この人、顔の系統はまったく違うけど、アレだからね?鈴香は隔世遺伝?」
「……はぁ、そうなんですか。」

さすが…この無理のある設定を、綺麗に作られた笑顔で口八丁手八丁で纏め上げる洋子の恐ろしさ。


たかが15,6の子供が裏を読み取れるわけがない。しかも相手は佐伯、ちょろいもんだわ。


『ね?』とダメ押しのごとく同じ笑顔を私に向ける洋子に呆れ、椅子に深く腰掛けると同時に店の中から聞こえてきたのは―――。

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