「ね、佐伯。私今から休憩貰っていい?ちょっと2人と話したいし。」
「え?あぁ、それはいいけど……。」
「ありがと。30分したら戻るから、悪いわね。」
「いや、それはいいんだけど…あ、何か持ってくるか?」
「別にいいわよ、ちょっとの間だし。」
バンダナを外しながら二人の正面に座ってもまだ傍を離れない佐伯。
ここにいられたんじゃ、いつまでたっても話ができない。
どうしたものかと小さく溜め息をつくと、目の前にあるのは光輝の宇治金時。
あ、これでいいじゃんとスプーンを取りひょいと口に運ぶ。
「ああああああああ!!!!」
「なっ、なによっ!」
「そこが一番大切なのにっ!鈴香ちゃんひどいっ!」
「ちょ、ちょっと。光輝……そこまでって大袈裟……。」
思い切り仰け反った光輝が、テーブルに突っ伏してさめざめと泣き崩れる。
ちょっとだけあんことコンデンスミルクがかかった場所を食べただけなのに、この世の終わりとばかりの態度と恨めしげな瞳。
……そんなに好きだなんて知らなかった。
「すみません、佐伯さんでしたか。鈴香ちゃんに何か持って来てください。このままだと僕の宇治金時がっ…。」
「はっ、はい。分かりました。適当に作ってきます。」
「お願いしますね…?」
傷心に打ちひしがれたといった表情の光輝に怯みながら、佐伯が慌てて店に向かう。
今にも吹き出しそうな勢いの洋子は、肩を震わせながら事の成り行きを見守っている。かなり楽しんでいるのか、なんとかしようという気はさらさらないらしい。
邪魔者はいなくなったけれど、正直……。
「光輝…あんた、かなりウザイわよ?」
「ヒドイじゃないですかっ!本当に楽しみにしてたんですよっ?」
「あー、はいはい。私が悪かったわね。…で?この状況はいったいどういう事?」
「相変わらず貴女は態度が大きすぎますっ。…はぁ、これはですね、お客様が不安定にならないように、その方に合わせたオプションというかサービスです。貴女には彼女が一番だろうと決定しまして一緒に来て頂きました。ただ、時間の関係上今日の夕方までになりますが……。」
「―――ってわけ。驚いたでしょ?」
光輝が説明をする間中黙って、しかしビールを美味しそうに口に運びながらちらりちらりと海の家を覗き込んでいた洋子が、さも自分が言い出したかのように胸を張る。
08 夏にご用心