そして、それが何の前触れもなく突然やってきたのは昼を回り少し店の中が落ち着いた頃。
「はーい!生ビールと宇治金時上がったよー!」
「あ、私が行きます。外の注文はこれで終わりでしたよね?」
「いい?分かる?」
「テーブル見れば分かるでしょ。」
そう、他のテーブルはもう何かしら乗っている。と言うことは、何も乗っていないテーブルに持って行けばいいだけの事。
しかし、どいつもこいつも真昼間から酒とは……なんて羨ましい。
左手に生ビール、右手にトレイを持ち店の外に出るとカップルらしい男女が背を向けて座るテーブルに何も乗っていない事に気づく。
―――あのテーブルか。
後ろ姿だけど何とも似合わない2人だな。
一人は髪型の感じや雰囲気からして仕事の出来る自分に自信がありそうな女。もう片方は、ぼんやりしていて優柔不断そうだな…と数歩近づいて気がついた。
―――なんで!こんなところにいるの!それも2人で!
ずかずかと大股でそのテーブルに近づく私の後ろを佐伯が慌てて追いかけて来て並ぶ。
「あのさ鈴香、そのお客の注文なんだけど……。」
「分かってる。まさか光輝が甘いもの、それも妙に渋いとこが好みなんて知らなかったけど!これはどう考えてもあんたの好みじゃないだろうからね?お待たせ、真っ昼間から優雅にビールなんて羨ましいわね、洋子?」
光輝の前には宇治金時、洋子の前にビールをドンと置くと、ちらりと私を見上げた洋子が盛大に吹き出す。
「あっははは!ちょっ、あんた!みっ、水着にエプロン!そっ、それに何そのまともな髪型!どうしちゃ……ぶっ、あはははは!」
「…久しぶり会ってその反応ってどうかと思うんだけど?それに光輝、いったいどういうつもりよ。」
「えー?会いたいかな?って。鈴香ちゃんが。」
……鈴香ちゃん?鈴香ちゃんってどうしたんだ。
コイツもしかして、豆腐の角かなんかに頭でもぶつけてきたんだろうか。
にこにこ私を見上げる光輝に、思考と身体が一瞬止まる。
「あの、鈴香の知り…合い?」
おずおずといった感じで後ろから掛けられた佐伯の言葉に、なるほどと理由が分かる。
どう見ても年下の私に敬語を使っていてはおかしく見られる。
それでなくても今の光景は他人から見れば充分不思議な光景だろう。
それならば、とりあえず……。
07 夏にご用心