02 夏にご用心

息を切らせていると、店の中からあかりちゃんが飛び出してきて私に抱きつく。

「鈴香ちゃ〜ん!酷いんだよ〜!」
「何が?!」
「佐伯くん、悪魔なんだよ!」
「だから、何が?!」

こっちこっちと入った店の中には、水着姿にバンダナを巻いた佐伯。
どこかで見たことがある。

……今日は何月何日だ?!

驚いた顔の佐伯が口を開く前にこちらから問いかける。

「今日は何月何日?!」
「8月1日だけど、じゃなくて!なんで鈴香が?!」
「私が呼んだんだよ!こんなの私一人じゃ恥ずかしくて出来ないよ!」
「お前バカか!こんな格好鈴香にさせられないだろ!」
「じゃあ、どうして私はいいのよ!」
「お前だからだ、海野。」

……油断してた……

このイベントが8月に入っていきなりやってくるとは。そして、それに私が参加させられるとは。

どう見ても友好的とは言えない2人にすっかり忘れていたけれど、夏にはこれがあるんだった。

今までどうしてか自分も参加してきたんだから頭に置いておくべきだったよ。
でも、あかりちゃんから始まるんだったら気づかないわ。

まさかヒロイン側からのアプローチがあるなんて思わなかった。

言い合う2人を前に、こっそりと溜め息をつく。

「鈴香は帰った方がいい。危ないから。」
「…いいわよ、手伝いでしょ?私もやるわ、あかりちゃん一人じゃ可哀相だし。」
「やった〜!鈴香ちゃん大好き〜!」

抱きつかれ剥がれないあかりちゃんに、更衣室のある場所まで案内してもらう。お客さんも使うから手荷物は厨房の隅に纏めておくらしい。

へぇ、海の家ってこういう造りになってるのか。

初めての場所に感心しながらパーカーを脱ぐ。
まさか水着エプロンを現実に自分がやるなんて思ってもみなかった。

「ん?あかりちゃん、脱がないの?」
「だって、恥ずかしくて……。鈴香ちゃん平気なの?」
「あー、水着エプロンなんて、どこぞのオヤジみたいな発想だもんね。」
「そっ、それもそうだけど、水着になるのだって恥ずかしいよ。」

海に来て水着が恥ずかしいものなのか。
右を見ても左を見ても水着姿の人しかいない。
反対に服着てる方が目立つだろうに。

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