「鈴香ちゃん!お願い!助けて!」
夢の中という至福の時を邪魔されたのは、あかりちゃんの切羽詰った悲鳴のような声。
「ほぇ?」
ほとんど…いや、まったく寝ぼけて携帯を取ったらしい。はっきり言って、通話ボタンを押した記憶さえない。
「…どうしたの?あかりちゃん。」
「どうしたの?じゃないの!今から水着持って海に来て!お願い!」
「…えー?眠いよ。」
「ダメなの!鈴香ちゃんしか居ないの!一生のお願い!」
今にも泣き出しそうな声に、寝ぼけていた頭が動き出す。
なんで海。そして一生のお願い。
詳しく理由を聞こうとするものの、お願いばかりを繰り返され根負けする。
やっぱり私はあかりちゃんに弱い。
「もー、分かったから!今から15分で行くから待ってて!」
「やった〜!じゃあ待ってるから!鈴香ちゃん大好き!ありがと!」
最後の方は尻すぼみ状態で電話が切れる。
よっぽど慌てているのか…
今から海ねぇ。焼けるんだろうなぁ。
今は気にする必要もないから、ここでくらい焼いてもいいんだろうけど。
窓の外を覗いてみれば、まるで絵に描いたような真っ青空。
もう夏休みに入っているし、当たり前なんだけど夏なんだ。
15分なんて言ってしまったから、柄にも無く手早く身支度する。
―――水着は着ていけばいいし、ホットパンツにパーカーでも羽織れば十分だろう。
でも、海って何が必要なんだ?下着とタオルと…よく分からないからいいか。最悪そのまま帰ってくればいいんだし。
海に行く時のアイテムなんて分からないから、とりあえず思いつくままに鞄に詰め家を出たのがそれから3分後。
全力で走って到着したのが15分後で、3分遅刻。
走ってる最中の電話で指定された場所には辿り着いたんだけど……。
目の前にあるのは海の家。
……どういう事だ?
01 夏にご用心