01 夏にご用心

「鈴香ちゃん!お願い!助けて!」

夢の中という至福の時を邪魔されたのは、あかりちゃんの切羽詰った悲鳴のような声。

「ほぇ?」

ほとんど…いや、まったく寝ぼけて携帯を取ったらしい。はっきり言って、通話ボタンを押した記憶さえない。

「…どうしたの?あかりちゃん。」
「どうしたの?じゃないの!今から水着持って海に来て!お願い!」
「…えー?眠いよ。」
「ダメなの!鈴香ちゃんしか居ないの!一生のお願い!」

今にも泣き出しそうな声に、寝ぼけていた頭が動き出す。

なんで海。そして一生のお願い。

詳しく理由を聞こうとするものの、お願いばかりを繰り返され根負けする。
やっぱり私はあかりちゃんに弱い。

「もー、分かったから!今から15分で行くから待ってて!」
「やった〜!じゃあ待ってるから!鈴香ちゃん大好き!ありがと!」

最後の方は尻すぼみ状態で電話が切れる。

よっぽど慌てているのか…

今から海ねぇ。焼けるんだろうなぁ。
今は気にする必要もないから、ここでくらい焼いてもいいんだろうけど。

窓の外を覗いてみれば、まるで絵に描いたような真っ青空。
もう夏休みに入っているし、当たり前なんだけど夏なんだ。

15分なんて言ってしまったから、柄にも無く手早く身支度する。

―――水着は着ていけばいいし、ホットパンツにパーカーでも羽織れば十分だろう。

でも、海って何が必要なんだ?下着とタオルと…よく分からないからいいか。最悪そのまま帰ってくればいいんだし。

海に行く時のアイテムなんて分からないから、とりあえず思いつくままに鞄に詰め家を出たのがそれから3分後。

全力で走って到着したのが15分後で、3分遅刻。

走ってる最中の電話で指定された場所には辿り着いたんだけど……。

目の前にあるのは海の家。

……どういう事だ?

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