今日はバイトの日じゃないじゃない。私、ちゃんと避けてたんだもの。それに、月曜なら完璧に来ないって思ってたのに!
目の前には、独特で柔らかそうな金の髪、吸い込まれそうな瞳の色をしたゲーム画面でこれでもかと見続けた人が、涼しげな顔をして座っている。
その顔を唖然と見つめながら、安全日だからって生でやっちゃって、後から「失敗したー!」と大慌てな男の様な事を考えてる私が居る。
……そんなくだらない事を考える頭はあるんだ、私って。……じゃなくて!!
「鈴香さん、彼が誰だか分かる?」
「え?」
マスターに声を掛けられ我に返る。
ここはどう言うべきなんだろうか。
雑誌で知ってるって言ってもいいんだろうけど、この春からここに来てるんだから知ってたらおかしいんだろうか?
一瞬考えてマスターの方に顔を向ける。
「いえ、マスターのお知り合い?」
「知らなかったんだ。彼、雑誌とかに出てるんだけど。『はばチャ』って知らない?」
「私最近こっちに来たんで……。」
ウソは言ってない。そう言えば、まだ『はばチャ』って読んでないんだもの。本屋とかって行かないし。だけど、一度だけショッピングモールでポスター見たっけ。やたら……特大の。
「そうなんだ。じゃあ、この辺りに詳しくないんだ?だから珪くんにも反応しないのかな。ね?珪くん?」
「……そうなのか?」
しゃ、喋った!!今まで黙ってたのに!いや、さっきまで話し掛けられてたみたいだけど!
すっげ!葉月珪だ!私ちょっとヤバイ!
目の前にいる人が、私の顔を見て話してる事にかなり興奮する。佐伯の時とは大違いだ。
ん?佐伯?……佐伯?もしかして……、この人もキャラ違った……り?
「あの……、何か私に用でも?」
恐る恐る話し掛けてみる。もし、万が一私が恐れてる最悪な場面に出くわしたら、速攻で飛び出そうと足で静かに鞄を自分に引き寄せ、読んでいた本を閉じる。
後は、鞄をつかんで本をねじ込み財布を掴んでお金を出す。お釣りさえ気にしなければ10秒もあれば逃げられる……はず。
よし。シュミレートはオッケー。どんな答えでもドンと来い。
17 思わぬ出会い