ひとつ溜め息をついて左手で頬杖をつく。
なによ、コレ。もう、出会いからしてあり得ないじゃない。
ヒロインとの出会いがいきなり病院ってなによ。
最初の3行で読む気がなくなり、斜め読みになる。たぶん明日ははるひに突っ込まれるだろうなぁ。なんて考えながら。
カランとドアベルの音が軽くして、私の後ろを人が通り左隣に座る気配。凄く控えめだけど、柑橘系のいい香り。
コーヒーの香りの邪魔にならないくらい微か。
それどころか、どっちかと言えば癒される。私の今の現状ではね。
ページを捲りつつコーヒーを飲む。
これほど頭に入ってこない小説も珍しい。
かなり集中しないと、前のページをすぐに忘れてしまう。ページを行ったり来たりして流れを掴む。
さっきから、隣の人が少し動く気配が頭の後ろ辺りで感じられる。
「……それって、そんなに面白いのか?」
「んー?まったく?」
「……どんな話?」
「んー?ベタな恋愛小説。」
なんだか隣から話しかけてくるのは気になるんだけど、適当に答えながら読み進める。
……入院しているヒロインを、しかも雨の中連れ回して熱が出るって……、当たり前だわね。
バカじゃないかしら、この男。って言うか、作者が。
「……面白くないのに、どうして読んでるんだ?」
「んー?友達が読めって言うから。」
「……どうして?」
「これ読んだら、冷めた恋愛感がなんとかなるんだって。」
救急車で搬送……そりゃあ当然だわね。元々入院してるって事は病人なんだし。んで、男がヒロインの病名を知る……と。
……ホントにどうしょうもないくらいベタだわ。
「……なんとかなるのか?」
「んー、どう考えても無理ね。あまりにベタすぎて展開が読めるし。」
「……無理だったらどうなるんだ?」
―――どうなる?
どうなるって、どうもならないでしょ。って言うかさ、さっきから隣でごちゃごちゃウルサイんだけど。
文句の一発でも言ってやろうと、隣を見て固まった。
―――なんでここに居るの!
16 思わぬ出会い