このままほっといて部屋に転がり落ちたら面白いんだろうけど、万が一窓の外に落ちたら笑い事じゃすまない。
肩を揺らして起こしてみる。
「佐伯?眠いならベットに寝れば?佐伯?」
「……ダメ。寝たら鈴香帰っちゃう。」
……そんなの、帰る気があるならとっくに帰ってるんだけど。
自慢じゃないが、そんなに寛大な心は持ち合わせていない。嫌なら窓から飛び降りてでも帰ってる。
「帰んないからちょっと寝なよ。私、まだここからの景色見ていたいし。」
「ホントに帰らない?」
「うん、面白いものもあるし。」
そう、あのびしょ濡れの2人。これからどうなるんだろう。
なんか、凄く気になる。『じゃあ、ごめん。少しだけ。』とベットに転がる佐伯を見届けて、また浜辺に目を向ける。
さっきまで『ほらほら〜、水しぶきがきれ〜い!』『この〜。』な感じだったのに、今はおそらく本気で水を掛け合っている。
うわー、すげー。これは、飽きないわ。
B級恋愛ドラマがコントになっていて、思う存分堪能した。
少しずつ日も傾いて波間の光の反射が昼間とは違って見える。
小さく聞こえた声に起きたんだろうかと振り向こうと思ったと同時に慌てた声。
「ごっ、ごめん!!いっ、今何時!?」
「さぁ?時計見てないから……ぷっ!」
「え!?なっ、なに!?」
飛び起きてベットに正座していた佐伯の髪に寝癖がついていて、思わず噴出してしまう。
たしか、セットには時間かけていたんだっけ?
突然笑い出した私が理解できない佐伯は目を丸くしていて、それがまた可笑しい。
ちょっと前までお笑いコントを堪能していた私は、スイッチが入っているようだ。
「寝癖、ついてる。左側だけ。」
「うそっ!!」
「ホント。鏡見てみたら?」
慌てて鏡に向かう佐伯にまた笑う。
セットに一時間なんてないと思っていたけど、この姿見たら本当だったんだと分かる。
無造作ヘアだっけ?ただの寝癖頭じゃなかったんだ。
どうやってもピョンと跳ねた左側を、ブツブツ言いながら必死に直している姿を見ながらこっちも必死に笑いを噛み殺す。
面白すぎる、こいつ。
13 思わぬ出会い