恋人と居ればどこでだって楽しいんだろうけど……。
コーヒーを飲みながらじゃれあってるらしきカップルを見ていると、視界の端で佐伯と目が合う。
「なに?コーヒー美味しい?って聞きたいのなら、美味しいわよ?すごく。」
もう少し苦味があったほうが好みだけど、これはこれで美味しいと思う。さっきの料理の後ならこれくらいがいいのだろう。
「あ、ありがと。じゃなくて。なんか、この部屋に鈴香が居るのって不思議だな……なんて。」
なにバカな事言ってるんだ。まさか、自分の行動を忘れたとか? 一時間ほど前の事なのに?
「……不思議って、あんたが私を押し込んで鍵閉めたんじゃない、さっき。」
「そうじゃなくて!いや、そうなんだけど。って今は閉めてないぞ?」
「なんだ、てっきり痴呆症にでもなったのかと……。」
「なってないから。そうじゃなくて、自分の空間に鈴香が馴染んでるのがいいなって。」
……相変わらずの乙女思考め。
そこで頬を染めるんじゃない。
押し込まれて仕方なく入って、流れで居るだけなんだから、そうも嬉しがる事でも照れる事でもないだろうに。
「そんなに楽しいの?ニヤニヤしてるけど。」
「ニヤニヤなんてしてないけどさ、うん。嬉しい。」
「ふーん。変わってるのね、人が部屋にいるだけで楽しいって。」
「人じゃなくて、鈴香だから嬉しいんだけどな。」
「そんなものかしらねぇ。」
あまり深く突っ込まないように、コーヒーを飲みながら視線を逸らす。
視界の端で佐伯がニヤニヤ気持ち悪く笑ってるのは見えるけど。
―――あ、あのカップルまだ居るよ。
よく飽きないな。って言うより、あれじゃびしょ濡れだろう。
波打ち際ぎりぎりじゃなく、もう波に足を捕られている。バカみたいどころじゃなくバカだわ、いくらなんでも。
急に大人しくなった佐伯に顔を向けてみれば……、揺れる頭。
―――子供みたい。
うつらうつらと居眠りを始めた佐伯に近づいて、握り締めていたカップをそっと抜く。それに気付いてぼんやりと目を開けるが、ほとんど意識がないらしい。
昨夜はあまり眠ってないのだろうか。
12 思わぬ出会い