12 思わぬ出会い

恋人と居ればどこでだって楽しいんだろうけど……。

コーヒーを飲みながらじゃれあってるらしきカップルを見ていると、視界の端で佐伯と目が合う。

「なに?コーヒー美味しい?って聞きたいのなら、美味しいわよ?すごく。」

もう少し苦味があったほうが好みだけど、これはこれで美味しいと思う。さっきの料理の後ならこれくらいがいいのだろう。

「あ、ありがと。じゃなくて。なんか、この部屋に鈴香が居るのって不思議だな……なんて。」

なにバカな事言ってるんだ。まさか、自分の行動を忘れたとか? 一時間ほど前の事なのに?

「……不思議って、あんたが私を押し込んで鍵閉めたんじゃない、さっき。」

「そうじゃなくて!いや、そうなんだけど。って今は閉めてないぞ?」

「なんだ、てっきり痴呆症にでもなったのかと……。」

「なってないから。そうじゃなくて、自分の空間に鈴香が馴染んでるのがいいなって。」

……相変わらずの乙女思考め。
そこで頬を染めるんじゃない。

押し込まれて仕方なく入って、流れで居るだけなんだから、そうも嬉しがる事でも照れる事でもないだろうに。

「そんなに楽しいの?ニヤニヤしてるけど。」

「ニヤニヤなんてしてないけどさ、うん。嬉しい。」

「ふーん。変わってるのね、人が部屋にいるだけで楽しいって。」

「人じゃなくて、鈴香だから嬉しいんだけどな。」

「そんなものかしらねぇ。」

あまり深く突っ込まないように、コーヒーを飲みながら視線を逸らす。
視界の端で佐伯がニヤニヤ気持ち悪く笑ってるのは見えるけど。

―――あ、あのカップルまだ居るよ。

よく飽きないな。って言うより、あれじゃびしょ濡れだろう。
波打ち際ぎりぎりじゃなく、もう波に足を捕られている。バカみたいどころじゃなくバカだわ、いくらなんでも。
急に大人しくなった佐伯に顔を向けてみれば……、揺れる頭。

―――子供みたい。

うつらうつらと居眠りを始めた佐伯に近づいて、握り締めていたカップをそっと抜く。それに気付いてぼんやりと目を開けるが、ほとんど意識がないらしい。

昨夜はあまり眠ってないのだろうか。

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