マズイなと恐る恐る佐伯の顔を見ると、それに気付いた佐伯がにっこりと笑う。
「今よく考えてみたんだけど、海野の事は夏のいい思い出だなって思うんだ。俺にはやっぱり鈴香しかいないからな。
だから、鈴香が気にする必要なんてないからな。」
「よく考えてって……。ものの数秒じゃない。」
「時間じゃないぞ?密度で言えば数年分考えたから大丈夫だ。コーヒー冷めたから淹れ直して来るよ。」
やけにすっきりとした顔で私の手からカップを取ると、トレイを手に部屋を出て行く。
もう今日はどんなに弁解しても、上手く言いくるめられないだろう。
――これはじっくり対策を練らないと。
私じゃとてもじゃないが無理だ。こんな時に洋子が居ればいいのに。私と違ってちゃんと考えてるし、まともな恋愛してるし。
この世界では、話せるのは光輝だけなんだけど……。どう考えても私より恋愛経験なさそうだ。
それに、『いいじゃないですか、別に。そのためにここに来たんじゃないんですか?』とか言いそうだし。
元々そのために来たわけじゃないから、そういう目で見られるのがねぇ……。
3年間だけだと割り切っちゃえばいいんだろうけど、その先に彼らの人生があるかもと思うと……。
うーーん、困った。どうやったらいいんだろう。
どんなに考えたって答えなんて出ないんだけど、単純にゲーム画面で見ていた場所に来ているなんて楽しめるわけもなくて。
窓の外を見ながら溜め息をつく。
この景色も見てみたかったんだけどね、綺麗なんだろうって思ってたし、実際目の前が海。いわゆるオーシャンビュー。
本当に贅沢な景色だよ。
「お待たせ。そこからの景色気に入った?」
コーヒーを淹れ直して来るだけにしては時間が掛かっているなと思っていたら、さっきよりも大きなトレイにパスタが乗っていてサイドテーブルを出すと手招きをする。
そうか、もうお昼なんだ……。
まさか、2日続けて佐伯の手料理をご馳走になるとは。そして、こんな所で食べる事になるとは……。
「下に行けばちゃんとしたテーブルあるけどさ、ここでいいだろ?」
「うん、それはいいけど……。相変わらず器用ね。」
どうしてこんな事が出来るのか、テーブルの上にはアスパラとさやえんどうのパスタ。振りかかったチーズの香りがとてもいい。
そして、コンソメのスープ。こんな短時間に出来るものなんだろうか?
09 思わぬ出会い