10分ほどの争いの後、ぐったりと私が窓辺に腰掛ける。
普段ここまで強情じゃないくせに……。
勝った事でテンションの上がった佐伯から、コーヒーを受け取る。
「なぁ、俺の部屋ってどう?」
「あ?疲れてそんな事言う気力もないわよ。」
「ヤだ。感想聞きたい。」
……やっぱり、コイツってウザイ。
さっきは元に戻ったなんて思ってたけど、戻ってなんかない。ウザさがさらに拍車をかけている。
『感想は?』としつこく何度も聞かれ、キレる寸前になりながらも辺りを見渡す。
「……いいんじゃない?こーいう雰囲気の部屋って初めてだけど。」
「やっぱり?結構自慢の部屋なんだ。」
「ふーん……。ちょっと屋根裏チック……って!」
私なに普通に会話してんのよ!
今の部分って、本来あかりちゃんとするもんでしょうが!そうなのよ!なんで私がここに居るの!
「どっ、どうしたんだよ?」
「あのさ、この部屋に入ったのってもしかして……。」
「鈴香が初めてだけど?」
キョトンと私を見つめる佐伯。
その目は『当然だろ?』と言いたげだ。
だから、私じゃマズいんだって!
ここでは、あかりちゃんといい雰囲気になるべきであって、私じゃないのよ!
……いや、私といい雰囲気なわけじゃないけどさ。
そうなのよね、そこのところがさ……。
「ずっと不思議だったんだけど、どうしてあかりちゃんじゃなくて、私なのよ。」
「海野?なんで海野なんだ?」
「佐伯の初恋、なんじゃないの?あかりちゃんって。」
「なっ!?」
これって、『なんでそんな事知ってるんだ!』的反応だよね。
漫画みたいにコーヒー噴いたよ。
本当に分かりやすい子なのねぇ。
カップに口をつけながら、佐伯の様子を観察する。慌てた様子でコーヒーを拭いててる姿は、これまでに恋愛経験がまるでないのを物語っていて――。
……待ち合わせ場所で思ったのは当たりだったって事か。
「それって―――。」
「誰も言ってないわよ?ただ佐伯が以前に会った事あるって言ってたから、カマかけてみただけだし。」
「……なんでそんな事聞くんだ?」
なんで?って言われても。私にとって、佐伯瑛は主人公とくっつくのが当たり前というか……。
いや、別に他の誰とくっついてもいいんだけどさ。誰とEDを迎えても幸せになるわけだし。
ただ、『昔出会った』事を思い出したのならアンタとくっついた方が、アンタが幸せになれるんじゃないの?
07 思わぬ出会い