20 面白がってるんでしょ?

こんな事をする人物は、一人しか思い当たらない。

「黙って背後に立たないで、って言ったと思うんだけど。」

「あぁ。そうだったか?」

悪びれもせずニヤッと笑う志波。ここに私が居るのによく気付いたものだ。

「やっぱり早いのね? でも、最後はちょっと体力不足?」

「だな。危なかった。……おい、タオル借りていいか?」

「え? あぁ、凄い汗ね。私ので気にならないんだったらどうぞ?」

「いや、そのままでいい。」

首にかけていたタオルを外そうと、引き抜こうとした手を止められる。そのまま少し屈んで、私の手ごとタオルを掴み、もう片方の手は私の反対の肩に置いて汗を拭いた。
めんどくさいにも程があるんじゃ?と何気なく顔を上げると、すぐ傍まで近付いて来ていた佐伯と目が合った。
肩に触れた志波の頭が、小刻みに揺れている。

―――また、やられた!

「ちょっと!志波!! あんた、またわざとでしょ!」

「サンキュ。じゃあな? 鈴香。」

「ちょっ!誤解を招く事言わないでよ!」

ニヤニヤと笑いながら耳元に囁いて、スルリと去っていく。残されたのは、プルプルと肩を震わす佐伯と私。
ダメだ、これはホントの事言わないとコイツ叫び出しかねない。

「佐伯。ちょっと来て。」

口の開かないうちに人目の付かない場所に移動しようと、佐伯の腕を掴んで引っ張る。
テントの前を通り過ぎる時、保健室を指して丸と指を丸く丸める彼女がいた。腐っても教諭、さすがよく見ている。
………面白いからだろうけど。

分かったとばかりに指を丸くして合図を送り、校舎に駆け出す。他の生徒にって言うか、女の子に見つかったら大変な騒ぎになる。

どういう訳か、大人しい佐伯を保健室に押し込むと鍵をかけた。私が説明して納得すればいいんだけど。まったく、志波も面倒な事をやってくれるもんだ。
クルリと振り返った佐伯の顔を見て、溜め息が出る。

これは、ちょっとやそっとじゃ納得しそうにない。

体育祭は終わったはずだけど、私の体育祭はまだまだ終わりそうにないようだ。
もう一つ大きく溜め息をついて、佐伯の誤解を解き始めたのだった。

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