11 面白がってるんでしょ?

目の前には満面の笑みの佐伯。満面というか、崩れているというか、締まりがないというか……

「そうか……。やっぱり鈴香は志波より俺が……」

「違うから。」

「でもさっ、志波は好きじゃないんだろ?だったら―――」

「だったらじゃないから。」

どうして、あっちが好きじゃなかったからってあんたになるの。

結構バッサリと否定してるはずなのに、めげてないのかそれとも懲りていないのか。

もしかしたら都合の悪い事は聞こえていないかもしれない。

緩んだ顔で隣に居る佐伯。呆れ顔のはるひが肘で突く。

「あんな、さっきの佐伯ってかなりヤバかったで?」

「……さっきって?」

「あんたが志波に連れてかれた時。すんごい顔して追い掛けて行きそうやったんやで?あかりと引っ張るん、大変やったんやでな?」

「……そうなの?」

「ホンマにマジみたいやで、ちょっとは優しいしたり?なんや、可哀相になってきたわ」

佐伯に聞こえないよう、ヒソヒソと本当に小さい声で囁く。

追い掛けてどうするつもりだったんだろ?たかが競技なのに………

いや、それよりはるひにまで同情されるなんて。佐伯? あんたちょっとヤバイ。プリンスの名が泣くってば。

【――次の競技は100メートル走です。出場される生徒の皆さんは――】

「あ、100メートルってあかりちゃんだよね?」

「……鈴香、今話し変えようとしとるよな?」

「全然そんな事ないけど!?ほら、ちゃんと応援してあげないと!」

はるひの腕に手を回す。正直話題を変えたい。佐伯の相手は私じゃなくてあかりちゃんなんだから、変に構わない方がいいんだよ。

「なぁ、そういやあかりって、志波とどっか行ったよな?志波はどうしたんやろ?」

「さぁー? 自分のクラスにでも戻ったんじゃない?」

結局、あの2人は何処まで行ったんだろ?

あの男、あかりちゃんに変な事してないといいけど。

「鈴香は、あんな男の事なんて気にしなくていいんだ!」

「あー、はいはい。」

ホント、なんにもないといいんだけど。

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