目の前には満面の笑みの佐伯。満面というか、崩れているというか、締まりがないというか……
「そうか……。やっぱり鈴香は志波より俺が……」
「違うから。」
「でもさっ、志波は好きじゃないんだろ?だったら―――」
「だったらじゃないから。」
どうして、あっちが好きじゃなかったからってあんたになるの。
結構バッサリと否定してるはずなのに、めげてないのかそれとも懲りていないのか。
もしかしたら都合の悪い事は聞こえていないかもしれない。
緩んだ顔で隣に居る佐伯。呆れ顔のはるひが肘で突く。
「あんな、さっきの佐伯ってかなりヤバかったで?」
「……さっきって?」
「あんたが志波に連れてかれた時。すんごい顔して追い掛けて行きそうやったんやで?あかりと引っ張るん、大変やったんやでな?」
「……そうなの?」
「ホンマにマジみたいやで、ちょっとは優しいしたり?なんや、可哀相になってきたわ」
佐伯に聞こえないよう、ヒソヒソと本当に小さい声で囁く。
追い掛けてどうするつもりだったんだろ?たかが競技なのに………
いや、それよりはるひにまで同情されるなんて。佐伯? あんたちょっとヤバイ。プリンスの名が泣くってば。
【――次の競技は100メートル走です。出場される生徒の皆さんは――】
「あ、100メートルってあかりちゃんだよね?」
「……鈴香、今話し変えようとしとるよな?」
「全然そんな事ないけど!?ほら、ちゃんと応援してあげないと!」
はるひの腕に手を回す。正直話題を変えたい。佐伯の相手は私じゃなくてあかりちゃんなんだから、変に構わない方がいいんだよ。
「なぁ、そういやあかりって、志波とどっか行ったよな?志波はどうしたんやろ?」
「さぁー? 自分のクラスにでも戻ったんじゃない?」
結局、あの2人は何処まで行ったんだろ?
あの男、あかりちゃんに変な事してないといいけど。
「鈴香は、あんな男の事なんて気にしなくていいんだ!」
「あー、はいはい。」
ホント、なんにもないといいんだけど。
11 面白がってるんでしょ?