「おまえなぁ。いったいどういう事だよ。」
「見つからなかったでしょ?」
「確かにそうだけど!余計に時間かかってるぞ?」
「そんな事ないよ?瑛くんが捕まっちゃったら、もーっと時間かかるもん。―――でね?」
「―――!!こんな所に…扉?!」
「ほらほら。早く帰ろう?」
あかりが掻き分けた茂みの奥にあったのは、学校を取り囲む塀に備え付けられた小さな鉄製の扉。ずいぶん前から使われていないのか全体が錆ついていて鍵も役に立たないらしく、あかりが開けると鈍い音を立てた。学校裏は小さな森になっているのは知っていたが、こんな所に出られる場所があるなんて。
「ここを通り抜けると誰にも会わずに海まで出られるよ?ちょっと狭い一本道だけどね?」
「……よくこんな場所知ってたな…。」
「一年の時にね?図書室で学校周辺の地図見た事があって…。道が学校と繋がってたからどこに繋がってるのかな〜って探した事があったの。」
ここを管理するものがいるのか人が通れる小道。
そこそこ手入れされてる木々の間から吹く風が走って火照った身体を冷やす。
「…ほら。」
「手?手がどうしたの?」
「下。土だから滑ると危ないし…いいから貸して。」
あかりが言うように一本道ならはぐれる心配もないけれど、俺にとっては初めての道。
あまりこういうのは得意じゃないから何か言われる前に無理矢理あかりの手を握り自分が前に出る。二人で出掛けた時も時々、ホントに時々、こうして手を繋ぐ事はあったのに、風で揺れる木々の音と蝉の声しかしないからか、会話になるような言葉も出て来ずただ黙って歩く。
そんな俺にあかりもただ黙って、でもしっかりと手は握ったまま少し後ろを歩いていた。
「瑛くん!ほら、見て?」
「え―――?……あ!ウチの店だ。」
「あそこから……ずーっと行くと珊瑚礁。店に続く道が見えるね!」
「ほんとだ。へぇ…ただの一本道だと思ったけどそうじゃないんだな。」
森の中から少し拓けた場所。
そこから見えるのは海岸線と海と、そして珊瑚礁と灯台。
入り組んだ細く白い道が珊瑚礁まで伸びる。小高いこの場所から初めて見た海岸沿いの地形。
「歩いてる時はまっすぐな道に見えるのに…面白いよね?誰も知らないかな?」
「そう…かもな?こんな場所からあの道を見てる奴なんていないだろうし。」
「じゃあ。瑛くんと私だけが知ってるんだね!」
ぱっと明るく輝くあかりの笑顔が眩しい。そして真っ直ぐで羨ましいとも思う。
俺にはないものを持ってるあかりの傍は居心地悪い時もあるけれど、だから惹かれるんだろうなんて、そんな事も思うんだ。
「あの…ここで渡すのもどうかと思うけど、お店が始まる前に貰って欲しくて…。お誕生日おめでとう。」
「え…?サ、サンキュウ。なんか…びっくりした。」
「あ、瑛くん荷物が多いから今開けないでね?これっ、ひとつ持つから一緒にお店行こ?」
「あ?…ああ。じやあ行くか。」
突然あたふたと挙動不審になったあかりに小さな箱を押しつけられ、手にあった紙袋を取られる。言ってる事も今更どうしたんだとは思うものの、少しは俺を意識してくれたらしい事が嬉しくてさっきのように手を握ると海岸沿いに降りる道を下った。
まだまだ。きっとまだまだ俺の気持ちとは遠く離れているんだろうけど、それでも一歩進んだ気がする。俺にとってはそれが一番の誕生日プレゼントだった。
05.二人だけに見える道