あれから数日。
今日は1年の中に幾つかある憂鬱な日。
あかりにああは言ったものの、実際あまり期待は出来ないだろうと予感していた。
過去1年、その幾つかある行事は憂鬱どころか最悪で、気力も体力も尽きる程だったから。
3年間は我慢だって思ったけど、まさかこんな事になるとは。
―――優等生を演じる事。
学校では問題を起こさない。
学業を疎かにしない。
完璧に完全に。
幾つか自分に嵌めた枷(かせ)
親との…親父との約束。
唯一の大切な場所を守るために作った自分がまさかこんな日常を送る事になるなんて、ここに入学するまでは夢にも思ってもいなかった。
「はぁ……。よし、行くか。」
カウンターに座ってコーヒーを飲みながら、朝から数え切れない程吐いた溜め息をもう一度。
行きたくはないが休む訳にもいかず、弾みをつけて立ち上がった。手にしたのは店の鍵。重なりあって心地いい音を奏でる。
店から海岸線、そして学校に近付くまで。
まだ俺のままで海を眺めながら歩く。
「瑛くーん!おはよー!」
「あ?ああ、おはよう。」
「お誕生日おめでとう。私――頑張るから!」
「どうだかなぁ…。」
途中にある交差点。佇むのはあかり。俺を見つけて手を振りながら駆け寄る。
羽学生のいない海岸線で海の光を背にあかりが両手を拳に握り締め、気合の入った声で俺を見上げた。
一番最初のおめでとう。少しくすぐったい気分を隠しながら、ぼんやりなあかりでは頼りなさ過ぎてつい本音を漏らす。
「大丈夫だもん。ぜーったい、親衛隊さんから瑛くんを守ってあげる!」
「………それは…頼もしい…な?」
「あ。全然信用してないでしょ。私だって、やる時はやるんだから。瑛くんがモテモテになっちゃう運命なんて変えちゃうんだから!」
「運命って…あかり、それ、おおげさ―――。」
「頑張るぞー!おー!」
あんなに嫌がってたのに、ここ数日間であかりになにがあったのか。握り拳を高く上げて気合い十分な後ろ姿に声をなくす。
それにしたって、運命だなんてホントおおげさ。つーか、そんな運命なんていらないし。
でも、憂鬱な朝もあかりの明るさで少し心が軽くなったのは事実。
今日という日が運命なら、それに逆らうあかりを見るのも楽しいかもしれない。
少しだけ。ほんの少しだけ。
学校へ行くのが楽しみなような、そんな錯覚を起こしながら再び歩き出していた。
03.運命に逆らって