梅雨も明けた夏の空が木漏れ日の隙間から見える。
そういえば、ずっと以前にここで昼寝してたら、たまたま俺を見つけたあかりに起こされたんだっけ。あの時もこんな季節だった気がする。
「ね、瑛くん。もうすぐお誕生日だね?」
「ん?…あー…、そうだな。」
「なにか欲しいものとかある?」
「ない。」
「もー。ちょっとは考えてよ。」
「聞く方が悪いだろ?そういうのは黙って用意―――。あ。」
買ってきた購買のパンはなんだかんだと批評しながらすっかり食べ終えてしまい、つかの間の休息とばかり俺は芝生の上に横になり、あかりは日除け代わりの大きな木の幹を背もたれにして寛いでいた。
小さく声を漏らし思い出したとばかり俺を覗き込むあかりに、思い出したくもない憂鬱な行事を思い出させやがってと眉をしかめる。
それに。俺の生まれた日って、うっかり思い出す程度なものなのかよ。俺なんか、事前に色々チェック入れて、当日渡そうって家まで押し掛けてるっていうのに。
過去の記憶も頭を過り、不満が顔にも言葉にも出てあかりに背を向けかけてふと思い付いた事に気付かれないように小さく笑う。
特別な日じゃないのなら、俺が特別にしてやればいい。
「なぁ。俺さ、実は欲しいものがあるんだけど…。」
「なになに?教えて?瑛くんが欲しいもの、私が用意する!」
「………絶対、だな?」
「ぅ。えっと…おこずかいの範囲で。」
「それなら大丈夫だ。心配するな。プレゼンとはな―――?」
目を輝かせたかと思えばすぐにしょぼくれる。そんなあかりにしめたと上半身を起こして顔を耳元に近付ける。ぼそりと呟くと、にこにこと笑顔を浮かべていたあかりの顔が真っ青になった。
「むーりー!!そんな事絶対無理だよ!」
「ダーメ。あかりが自分で言ったんだからな?私が用意するーって。」
「言ったけど!親衛隊さんに囲まれない放課後なんて無理だよ!」
「だから。学校にいる間は勘弁してやるって言ってるんだ。―――頼んだぞ?バースデープレゼント。じゃあ、先に行くなー。」
してやったり。
これでちょっとはあかりの中でも特別な日になるだろう。
俺の気持ちをこれっぽっちも気付かない鈍感なあかりと2年も付き合ってるんだ。俺だっていちいちへこたれたりなんかしない。
七転び八起き。
つーか、何回でも起きてやるし。
「瑛くんの鬼ー!!」とか「悪魔ー!」とか。そんな言葉を背に受けながら、憂鬱な行事の中に希望が見えた気がして校舎へと戻る足取りも軽やかになっていたのだった。
02.七転び八起き