03.何だってするよ、してほしいことはなに?

久しぶりに開ける家庭用サイズの冷凍庫から氷を取り出し、氷枕を作ったのはついさっき。
真っ赤な顔で眠るあかりの枕と取り替えてから、また一階にあるキッチンでまたもや久し振りに家庭用の冷蔵庫と野菜室を勝手に開けていた。

「あー…。これくらいなら使っても大丈夫だよな…。」

家族で、といってもあかりを残して出掛けるのだからまったくの空っぽなんて事はないだろうと思ったのは当たっていたらしく、それなりの食材が入っていた。
少し悩んでからドアポケットにある卵を一個。野菜室から細ネギを少々。
それと、さっき氷枕を作る時に見つけた一人前に包まれたご飯を冷凍庫から取り出す。

「これだとあんま旨くないだろうけど仕方ないか。」

ちゃんとしたものを作って食わせたいとこだが、一からだと軽く見積もっても一時間。
さすがに他人の家でそこまでする非常識な俺ではないから、解凍したご飯を水で洗ってから土鍋に入れた。

その後は出来上がるまでにあちこち開けたおかげで見つけた物を使って軽い細工。
そこは非常識じゃないのかと聞かれれば返答のしようがないけど、それはそれ。これはこれ。
そして店では絶対にやらないけれど、これも時間がないから仕方ない。

「……と。これでよしっと。あいつ、食えるかな……。」

細工した物をグラスに盛り付けてから冷凍庫に入れ、代わりに盆の上に土鍋と、あかりのものらしき小さめの茶碗を置き、今日三度目になるあかりの部屋に続く階段を上った。

「あかり?起きられそうか?」
「うん…起きる。」
「じゃあ、ちょっとでも食って…薬…風邪薬でいいか?」
「うん…瑛くん、作ってくれたの?」

あかりが俺の部屋でしてくれたように、勉強机の椅子をベット近くまで引き寄せテーブル代わりに使う。
土鍋を開けて粥をよそう俺を見て、あかりが驚いたように俺を見た。

「味覚ないかもしれないけどさ、ただの白粥よりいいだろ?つーか、俺のイメージが熱出した時は卵粥だったりするんだけど。」
「うん。病気した時は卵粥だったんだよね?」
「……なんで知ってるんだよ。じいちゃんそんな事も言ってたのか?」
「……ふふっ。内緒。」
「なんだよ、それ。」

茶碗に半分程よそい茶碗を渡そうとすると、手を伸ばしたあかりが湯気の立つ茶碗の中を覗き込みながら嬉しそうに笑う。
そう言えば、あかりが看病してくれた時に、じいちゃんに電話したとか言っていたし、何かろくでもない事を吹き込まれたに違いない。

「そうだ。俺のせいで風邪引いたんだし、今日は何でもしてやる。して欲しい事はなんだ?」
「いいよ。こうやってお粥作ってくれたんだし。」
「いや、それじゃあ俺の気がすまない。なんでもする。つーことで……はい。あーん。」
「な、なにっ?」
「だから、あーん。食わせてやる。」
「い、いいよ!自分で食べるから!」
「ダメ。あーん。」

渡しかけた茶碗を引ったくり、ベットの脇に腰を下ろす。
スプーンに乗せた粥をあかりの口元まで運ぶと、熱のせいで赤くなった顔が更に真っ赤に染まった。
かなり熱は高いんだろうけど元気はあるし、ゆっくり眠ればすぐに元どおりになるだろう、と、観念したのか雛鳥のように口を開けて大人しくなるあかりにニヤリと笑い、またスプーンを茶碗に落としたのだった。


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