02.弱々しいきみを前にして

「ごめんなさい……。」
「いいって。つーか、元々俺のせいなんだし。そんな事より、鍵が空いてたぞ?無用心だろ。」
「ご、めんなさい……。」

俺が立ち止まった事で怒っているとでも思ったのか、あかりがまた小さな声で呟く。
動揺した事を悟られないように。そして胸元に視線がいかないように注意を払いながら、あかりの傍まで近寄り、さり気なさを装って掛け布団を引き上げる。
当の本人は鍵に気を取られたのか、かなり不自然な俺の行動に気づく事はなかった。

「……で?俺のが移ったのなら熱は高いんだろ?何度だ?」
「計ってないから……分からない…です。」
「……じゃあ聞くけど。ここにあるのはなんだ?」
「……体温計……です。」
「で?何度だった?」
「さんじゅう……度ちょっと。」

誤魔化そうとするあかり。強く睨み付けると俺が引き上げた掛け布団を口許まで更に引き上げ、ゴニョゴニョと言葉を濁す。
顔の赤さからして相当高い熱なんだろうに、どうして今更誤魔化すのか。

「な・ん・ど・だ?」
「……はちど…ちょっと。」
「はぁ。…もっとあるって事か。」
「そんな事な―――。」
「いいから、寝てろ。」

布団を引き下ろし俺の顔を近付けると、観念したのか小さく呟く。
それでもまだちゃんとした体温を言わないあかりの強情さに呆れながら、引き下ろした布団をまた被せた。

正確な体温を確かめるためあかりのおでこに手を当てる。
掌に伝わるあかりの体温は、やはり本人のいうものよりもずいぶん高い気がする。
もしかしたら俺の出した熱よりも高いんじゃないか。と、あかりのおでこに手を当てたまま眉間にシワを寄せた。

「瑛くん…ごめんね。」
「気にしないで寝てろって。」
「お誕生日、お祝い出来なくてごめんね。」
「…バカ。そんなのいつでもいいんだよ。だから寝てろ?」
「よくないの。瑛くんの大切な日なんだからどうでもよく―――。」
「今はいいんだ。あかりが元気になる方が大事なんだから。」
「うん…早く治してお誕生日―――瑛くんの手、冷たくて気持ちい……。」

布団の中から伸びたあかりの両手が俺の手首を掴んだまま見上げる。掌に感じる熱よりも遥かに熱い。
つい昨日までは無駄に元気で寝込んでいる俺の周りをちょろちょろしていたのに。まるで、あれが夢か何かのようだ。

「なら、冷やした方がいいな。待ってろ。氷枕用意してくる。」

いつもとは違う弱々しいあかりを前に気の効いた言葉も見つからず、くしゃりと頭を撫でてあかりの部屋を後にした。

「場所、聞いておくべきだったな……。」

初めて上がった、しかも家族が留守中で、そのうえ本人が病気で寝込んでいる女子の家のキッチンを勝手に漁り、勝手に使う。

罪悪感がないとは言えないが、よんどころのない事情なんだから仕方ない。そう自分に言い聞かせ、目当ての物を探す。

たぶん何処の家庭でも同じだろうと目星を付けて開けた戸棚の中には想像通り土鍋が入っていたけれど、問題は氷嚢(ひょうのう)と救急箱で、ダイニングとリビングをウロウロし、あちこちの引き出しやら扉を開けている俺は、他人から見れば間違いなく立派な不審者だろうと思う。


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