05.子守唄でも歌いましょうか

マスターからの伝言を伝えた後の瑛くんは、これまでの疲れも出たのかよく眠っていた。
まだ喉が痛むからと食べられるものはお粥だけだったけれど、ちゃんと夕飯も食べてくれて、手渡した水の入ったコップに口をつけて薬を飲んでいた。
昼に洗濯した瑛くんのパジャマは天気がよかったからしっかりと乾き、私はベットの傍に座り込んでそれを畳んでいた。

外はすっかり暗くなり、真っ暗な海からは波の音だけが聞こえる。
この部屋には明かりが点いているけれど、お店の電気は消えているのだから、瑛くん目当てのお客さんもお店がお休みな事に気付いただろう。

「なあ……。ここまでしてくれてさ、今更言うのもなんだけど、おまえ、大丈夫なのか?」
「なにが?」
「なにがって……家。帰ってないだろ?」

もぞもぞと布団に潜り直した瑛くんが、横向きに身体を横たえ、私の方を見つめる。
畳んだ瑛くんのパジャマを椅子の上に置き、改めて自分の制服を見下ろした。

「んー…。家はね?昨日から誰も居なくて大丈夫なんだけど…。」
「は?誰もいないって…。」
「お母さんが福引きで海外旅行当てちゃったの。日程が合わなくて私は留守番なんだ。だから、瑛くんの看病させてってマスターに頼んだの。」
「ちょ…。じいちゃんはなんて――?」
「え?普通に…よろしくお願いしますって。」
「じっ――!?」

何に驚いたのか、突然身を起こす瑛くん。
一日眠っていたからか、熱は下がってきてるみたいだけれど、まだ油断は禁物と近付いて布団を被せる。

「もう!寝てなきゃダメだよ。早く元気になってもらって、ちゃんとお誕生日のプレゼント渡したいんだから。」
「だっ――だってさ!」
「もー…。すぐ起きようとするんだから。でも、一度家に帰ればよかったかな…ずっと制服なのも…。」
「そっ――そういう問題じゃ――。」

着慣れているとはいえ、やはり制服のままで一日居るのは楽ではない。でも、こんな時間に外に出るのもと視線を向けると、目に入ったのは椅子の上にあるパジャマ。

「瑛くん……パジャマ借りていいかなあ…?」
「おまっ――!?」
「明日またちゃんと洗うから――ねっ?ダメ?」
「………ダメ…とか言っても聞かないだろ…。」

夜だからまた熱が上がり始めたのか、真っ赤な顔をした瑛くんが、がっくりと肩を落として項垂れる。
どうしたのだろうと首を捻りながらも、椅子に置いた瑛くんのパジャマを手に取った。

「ありがとう!今晩は付きっきりで看病するね!眠れるように子守唄も唄ってあげる!待ってて!」

去年は出来なかった、一番最初におめでとうの言葉を添えて、元気になった瑛くんに誕生日プレゼントを渡すんだと、パジャマに着替える為に部屋を後にしたのだった。

END

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