03.おでこ、こつん

後片付けを終え、瑛くんの部屋に戻ってみると、ちゃんとベットに横になっていた。

「無理して普通にしなくていいのに…。」

ぐっすりと眠ってはいるけど、顔が赤いのは変わらない。
そっと頭を持ち上げながら、店の製氷機の氷で作った氷枕を差し込むと、冷たい枕が気持ちいいのか険しい表情が少しだけ穏やかになった。

「熱…どれくらいあるんだろ?」

おでこも冷やした方がいいかもと、洗面器に用意した水にタオルを浸しながら呟く。

見た目にはかなり高そうだけれど、何度くらいなのか分からない。
氷枕も入れた事だし、あまり冷やしすぎたら反対に辛いかもしれない。

「さっき起きた時に計ってもらえばよかったな。」

ぎゅっと水を絞ったタオルを小さく畳み、洗面器の縁にかけてから、前髪を少しだけ指先で掻き分ける。
さっきと同じように掌をおでこに当てると、まだ熱は変わらず高いままのような気がした。

「冷たかったら言ってね?」

少し眠りやすくなるくらいだったら平気だろうと、畳んだタオルをそっとおでこに乗せる。

手を当てて感じるよりも余程熱が高いのか、タオルはすぐ冷たさをなくし、何度も取り換えておでこに当てた。

薬も効いているせいか、肩で息をしていた呼吸が少し落ち着くのを見て、暫くは大丈夫だろうとベットの縁に両腕を平行に乗せ、並んだ腕に顎を置いてよく眠る瑛くんの横顔を眺める。

熱で苦しそうでも整った横顔が何だか悔しい。意味なんて分からないけど。

あ、そういえば、こうやって寝顔を眺めるなんて、余程の事がない限りあり得ないんだな。

前に一度あったのは、学校の昼休みだったっけ。

「………おはよう。」
「おは…じゃなくて!ねっ、寝ちゃってた!?」
「ぐっすりと。それはもう気持ちよさそうに。」
「ごっ、ごめんなさいっ。」

ぼんやりと、とりとめのない事を考えていたら私まで眠っていたらしく、何処からか感じる視線にふと目を覚ました。
その視線の持ち主は当たり前だけれど瑛くんで、顔だけを横に向けて、じっと私を見ていた。

「ねっ、熱とか気分はどう?タオル取り換えようか?」
「いや、それはもういいよ。サンキュウ。…ちょっと楽になった。」
「本当に?熱…少しは下がったのかな?」

自分が見ているつもりが、反対に見つめられている事に慌てながら、額からずり落ちてそのままになったタオルを洗面器に戻す。
幾分か、落ち着いたように見える顔色だけれどまだ熱は高いかもしれない。

掌で計るよりも、自分自身で感じた方が、より正確に分かる気がして、仰向けに寝直した瑛くんの身体に覆い被さった。
ベットのスプリングがギシリと音を立て、近付けた私のおでこを瑛くんのおでこにこつり、と当てる。

「えーっと…。さっきより…下がってる、かな…?」

じんわりと私のおでこに移る瑛くんの熱は、一番最初に感じたものより幾分かは低く感じた。と、思ったのも束の間。瑛くんの頬がさっきより赤くなった気がして、間近で瑛くんを見つめた。

「…………そういう不意打ちは…ひきょうだ。」

あまりに近かったせいか、唇が動くだけの小さな呟きが私には分からなかった。


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