いつの間にか俺があかりを特別だって思ったように、あかりだって俺を―――俺の事を…。
店と学校の事で頭がいっぱいだった俺がそんな事を考えるようになったのは、いったい何時の頃からだったんだろう。
出会って最初の頃はあんなに邪険に扱ったりしてたのに、自分の一言でどう思うかとか思われるかとか…そんな事を考えるようになったのはいつだった?
「もぉ〜。瑛くんここにいたのぉ〜?今日お昼食べるやくそくぅ〜。」
「ご…!ごめん。今行くとこ―――。って、こら。」
「あはは。だって、ぼんやり歩いてるから…凄くびっくりしたでしょ。」
「――――。ウ・ル・サ・イ。」
昼休みを告げる鐘の音の後。
購買へと降りる階段の途中、背後に人―――まさかあかりがいるなんて気付くわけもなく。ちょっと考えたら声の持ち主くらい分かりそうなものなのに、一瞬真っ白になった頭は条件反射で言葉と表情を選び振り返っていた。あかりが言うようにぼんやりしていたなんて認めたくないから、ゆっくりと降りてきたあかりの頭めがけて素早く右手を振り上げ下ろす。
「いたっ!」
「くだらない事するからだ。」
「もう!バカになっちゃう!」
「最初からバカなんだから、これ以上はバカになるわけがない。」
「なるもん。なってるもん。瑛くんなんて知らない。」
ぷっと頬を膨らませたあかりが捨て台詞を残して俺の横を通り抜け、階段を下りていく。どうやら今日はあかりも目的地が同じらしく、付かず離れずその背中を追って購買に辿り着いた。
いつもより少ないのは時間が数分早いからだろう。モタモタしていたらきっと身動きも取れず、目当てのものもなくなる。羽学名物と呼ばれたいくつかのパンが並べられていて、あかりはそれらの前でしかめっ面をしていた。たぶんだけど相当悩んでいるのだろう。
「こら。モタモタしてたらなくなるぞ?」
「だ、だって、目移りしちゃって…。」
「あー、もう。―――すみません。これとこれ。…それから、これ、下さい。」
生徒達が続々購買に押し寄せあかりが右へ左へと揉まれるのを見かね、これだろうと目星をつけて指を差す。差し出された紙袋を受け取ると人の波から抜け出す為にあかりの手首を掴んだ。驚いたように目を見開くあかりを波から引き出しもう一度チョップ。
「だから言っただろ、モタモタするなって。それと!今日はあかりの番なんだろ!行くぞ!」
「え…?ええっ?ちょ…ちょっと佐伯くん?さっきのはじょうだ…。」
「俺と昼飯食うの、イヤなのかよ。」
「そ…そうじゃないけど…。」
「だったらさっさと行く。見つかるだろ。」
「ちょっ…!て…佐伯くん!」
未練はちょっと残るものの、いつまでも手を掴んでいる訳にはいかず。
あかりだったら着いてくるだろうと先を歩き出す。目的地はとっておきの隠れ場所。
案の定、あかりは慌てながらも早足な俺の背を小走りで追いかけてきた。
それを感じながらふと思う。
―――せっかく誘うなら他にもっとあるだろ。
自分の中にある甘やかな感情を進展させようとすれば、それなりの態度なりがあるはずなんだ。それなのに、顔を見合わせれば口喧嘩ばかりだなんて。
今だって、他に言いようがあったはず。
どうやら俺は気の効いた言葉が浮かんで来ないようだ。
01.甘い恋とは程遠く