02.お手製の卵粥

「これでいいかな…。」

出来上がった土鍋をトレイに乗せる。

珊瑚礁のキッチンは家のコンロとは勝手が違い少し自信はなかったし、勝手に使わせてもらうのもと思ったけれど、部屋にあった薬箱とグラスから想像すると、何も食べずにとりあえず薬だけ飲んだらしく、それでは早く治らないし、身体にも悪い。

「食欲…あればいいんだけど…。」

瑛くんの部屋を開けるとまだ眠っていて、起こしていいものかと少し悩みながらベットの隣に引き寄せた椅子の上にトレイを置いた。

「ん……。」
「あ。目…覚めた?具合どう?」
「…あかり…?どうして…。」

さっき話した事は忘れているのか、ぼんやりとした目をする瑛くん。普段とは違う、無防備な子供のような顔と声。

「少し起きられる?薬飲む前にこれ、食べて?」
「………あかりが…?」

身体を動かす事も辛そうな瑛くんの背を支え、起き上がるのを手伝う。
土鍋のお粥を小鉢によそい、あさつきを振り掛けてから手渡すと、瑛くんは驚いたような表情を浮かべながら小鉢を見つめていた。

「これくらいなら作れるよ。…美味しくはないかも、だけど。」
「いや、そうじゃなくて。卵粥って懐かしいな…って。」
「懐かしい?」
「ガキの頃…熱出すとおふくろが作ってくれた。こうやって、あさつき散りばめたやつ…。」

優しく目を細める瑛くんはいつもとは全然違う。
普段が優しくない訳ではないけど、お家の事とか家族の事をこういう顔で話してくれた事は一度もなかった。

「……ごちそうさん。旨かった。」
「よかった…。」
「…思ったよりも。」
「……………。」

やっぱり、熱のせいなのかもしれない。

少し身体が楽になってきたのか、起き上がったせいで目が覚めたのか、いつもと変わらない瑛くんになってきていて、ホッと胸を撫で下ろす。

「でもさ…こういう時って、アレじゃないのか?」
「アレ?」
「ほら。一口ずつ、あーんって。」
「……………。病人はおとなしく薬を飲んで寝て下さい。」

やっぱり熱のせいだった。

なんだか子供みたいだなって、いっぱい優しくしないとなんて、一瞬でも思っちゃったのに。

テーブル代わりにした椅子の上に水の入ったコップと風邪薬だけを残し、土鍋を片付ける為に部屋を後にしたのだった。


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