01.うわさを聞いて駆けつけた

梅雨が明けたはばたき市は、今日も快晴。
空は海と同じくらい真っ青。
そして明日からは待望の夏休み。

こんなに気持ちのいい日なのに、きっと瑛くんは表向きは優しい笑顔を浮かべていても、一日中不機嫌なんだろうなと学校に向かいながら考えていた。

「佐伯くん、今日はお休みなんだってぇ。せっかくプレゼント持って来たのにー。」

二限目の休み時間にクラスの女の子達が話してた噂話を聞くまでは、私が見てないだけで学校に居るとばかり思ってた。

「密さん!ちょっと凄く大切な用が今すぐ出来たから帰る!」
「ふふっ。若王子先生には上手く言ってあげる。頑張ってね?」
「ありがとう!」

ガタリと椅子の音を立てて立ち上がると、一つの机に向い合わせで座り、話し込んでいた密さんを見下ろす。
女の子達の会話を一緒に聞いていた密さんが、手をひらひらと振ってふわりとした笑顔を浮かべた。

明日からの夏休みに浮き足立つ他の生徒達は鞄を手にしている私には無関心で、あっさりと学校を飛び出すと全速力で海に向かって走る。

早く行かなきゃとそればかりを考えていて、肝心な事に気付いたのは波の音が心地よく聴こえる珊瑚礁に着いてからだった。

「あ。開いてる…。おじゃまします…。」

来てみたのはいいけれど、珊瑚礁が開いているはずもなく。休んでる瑛くんを電話で呼び出せるわけもなく、何となく裏口のドアノブを捻ってみたら、すんなりと開き。

まるで泥棒みたいにそっと階段を昇って、数回来た事がある瑛くんの部屋まで辿り着いた。

一度深呼吸してから小さくノックする。

「瑛…くん?開ける…ね?」

少し待ったけれど中からは返事がなく、もう一度ノックをするとそっと扉を開けた。

「瑛くん……?」

外よりも静かに波の音が聴こえる部屋。
綺麗に片付けられた部屋のベットに横たわる瑛くんを見つけ、足音を立てないように近付く。

眠っている瑛くんの顔は熱が高いのかいつもより赤く、苦しそうに肩で息をしていた。

「電話してくれたらいいのに…。」

額に浮かんだ汗で前髪がくっついてる。しゃがみ込んで指先でそっとはらうと、閉じていた瞼がゆっくりと開いた。

「………あかり……?」

いつもと違う、風邪特有の掠れた声。ちょうど手首にかかる瑛くんの息が凄く熱い。

「薬、飲んだ?」
「学校、は…?」
「ちゃんと行ったよ?」
「そ…っか。」

完全に目を覚ましたわけではなく、すぐに目を閉じてうとうとと眠り出す瑛くん。

しっとりとした額に掌を置くと熱はかなり高い。

「おとなしく寝ててね…?」

身体が熱いせいなのか、はだけてしまった掛け布団を肩まで引き上げながら、耳元にそっと話しかけ、起こさないように静かに立ち上がった。

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