05.夏の夜風

カラカラと二人分の下駄の音が夜の街に響く。あれからもあかりを抱きしめて海面すれすれに連打する花火や、海の上を一列に並んで打ち上がる花火。はばたき市にはない花火を最後まで見続け、行きよりも込み合った電車に揺られ俺達の街へと戻ってきた。

「疲れただろ?足は大丈夫か?」

「うん、平気。」

「このまま真っ直ぐ帰るか?」

「ううん。もうちょっと…一緒にいていい?」

「なら…俺の家。コーヒー淹れてやる。」

大学に入ると同時に越したアパートは、通学の事を考えて駅からほど近かった。
部屋の窓から見える海はあの頃よりもずっと小さく遠いけれど、住宅街の中にあるから夜は静かで、あかりも普段からよく遊びに来ている。万が一疲れて帰りたくなくなっても、それならそれでいいかとあかりの手を引いて歩いた。

「おじゃましまーす。」

「あ、悪いけどベランダの窓開けて座ってて。すぐコーヒー淹れるから待ってろよ?」

「はぁい。……あ、風が気持ちいい。」

廊下を通り抜け、部屋へと向かうあかりの背中に声をかけながらキッチンの電気を点け小窓を開ける。
一日留守にしていた部屋は熱気に包まれていたが、あかりがベランダの窓を開けたらしく冷たい風が吹き抜けた。頼りない夏の夜風も歩いて汗ばんだ身体には十分すぎる程。
いつもなら季節関係なくホットコーヒーだけれど、今日は喉を潤す事を考えてアイスコーヒー。

「……お待たせ。なぁ、シャワー使うか?汗かいただろ。」

「うー…ん。そうしようかな?」

「じゃあ、これ飲んだら先に入ってこい。」

「あの……今日はごめんね?せっかくの瑛くんの誕生日なのに…結局なにもできなくて…。」

急に元気なくうなだれていたあかりの沈んだ声。
俺が生まれた日にあかりがずっといてくれるだけで俺は十分満たされるのだが、本人は今も昔も変わらずそれが分からないらしい。

「じゃあ…今日は泊まるって家に電話しておけ?今年の誕生日プレゼントは、あかりを貰うから。」

「ばっ――瑛くんっ?!」

「バカじゃないだろ?一番大切なものを貰うんだから、最高の誕生日だろ。……あ、プレゼントは一緒の風呂つきな?」

「瑛くんっ?!」

真っ赤になって怒りだすあかりに笑って立ち上がる。
あの頃こんな未来が待ってるなんてちっとも思っていなかったけれど、だからこそ、今は一番幸せなんだと思う。
あかりがこうしていてくれたら、きっと俺はずっと幸せ。

END

お題配布先確かに恋だった

PREVindex|NEXT

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -