腹に響く振動と同時に咲く花火が数発上がる。その度に辺りは赤や青に染まり、歓声が上がった。
ここは、沖に浮かべた船の上から花火を上げるらしく港の中にも出店が並び、人で溢れていた。
「はばたき市の花火も凄いけど、ここも結構だよな?」
「ほんとだね?…どうしょう?あんまり行かない方がいいよね?」
「いや、船の上からなんて滅多に見れないんだし、もうちょっと行こう。まだ始まったばかりだからあの辺り…急ぐぞ?」
俺が人込みを嫌いな事を知っているあかりが港に入ってすぐ先に進む事を躊躇して足を緩める。パンフレットをちらと見た限りでは、はばたき市の方が規模が大きく、まさかここまでとは想像していなかったようだ。
あの頃の、高校生だった頃の俺ならこの人波を見ただけで先に文句を言っていた所だろう。
でも、あの頃とは違う。一緒に何かをする事、何処かに出かける事。同じ時間を過ごす事、一緒に笑う事。
全部あかりと積み重ねてきたものだから、教えてもらった事だから、今この時間も…。
港の岸壁近く、人がまだ少ない場所を見つけぐいとあかりの手を引く。上手く入り込めた目の前が海の岸の端っこ。周りの人波に押されないように、隣に並ぶあかりの肩を抱き少しだけ俺の胸に収める。
シュッと打ち上がる音のすぐ後に、色が咲き乱れ響き渡る音に歓声もかき消された。
「……すごいね。こんなに近い花火…初めて…。」
「…だな。はばたき市でも、こんなに迫力のある花火は見られないしな。」
「うん、凄く綺麗。来てよかった、瑛くんと。」
「ああ。俺も、あかりと来てよかった。」
俺の胸の中にいるあかりが上半身を捻って振り向き俺を見上げた。
あの頃よりも長く伸びた髪はひとつに纏め上げられている。
でもあの頃と同じ、花火の光に輝く髪と嬉しそうな笑顔。
俺が来年も、これから先にも見たいと思ったその……。
「―――!!瑛く―――!」
「大丈夫だって。誰も見てないし。」
「……ばかっ。」
「ぷ。好きだよ、あかり。」
「瑛くんのばか。でも、好き。」
打ち上げ続けられる花火が幾つも夜空に舞う中で、俺を見上げるあかりに顔を寄せ唇をそっと重ねる。
驚いたように目を見開くあかりの頬が花火の赤に染まり、照れくさそうに俺にしがみついた。
この笑顔を見たいと思った。それは今も同じ。ずっと、ずっと。
胸の中のあかりをもう一度抱きしめ、花火の喧噪に紛れキスをしたのだった。
04.喧騒に紛れてキスをした