あちこちの出店をひやかし隊よろしく顔を覗かせながら花火がもっと近くに見える所までと先を歩く。
空いた手首にぶら下げる色違いの水風船、俺は青であかりは赤。二人の身体の反対側でゆらゆらと宙に揺れる。
むっとする程の熱気も、騒がしいくらいの人の声もどこからか聞こえる音楽も、こういう場所では苦にもならず、ただ見失わないように離れないようにと繋いだ手に力を込めて歩んでいた。
「で?あかりは何か買わないのか?」
「う〜ん……。あ、あれ!瑛くんあれがいい!」
水風船をぶら下げた俺の手はすでにリンゴ飴を持っている。
あちこち目移りして悩むばかりだったあかりが、漸く見つけたと俺の手を引く。
向かう先には色とりどりでふわふわと柔らかそうなわた飴が飾られ、甘い香りを漂わせていた。
「わた飴って…ここに来るまでにあっただろ。」
「違うの。袋に入ってないのがよかったの。」
「ふぅん。ま、いっか。で?どれがいいんだ?」
「んと、ピンクの―――って。だから今日は瑛くんの―――。」
「バカ。いい加減諦めろ。つーか、あんなの本気にするなって。―――えっと、そのピンクの下さい。」
繋いでいた手を離し浴衣の袖口から財布を取り出す俺にあかりが慌てだす。
誕生日だからってあかりに奢らせようなんて初めからなかった俺は、あかりがあたふたと巾着から財布を取り出している間にねじり鉢巻きを巻きつけたいかにもという風情の店主の手に代金を握らせた。
「ほら。この色だろ?」
「むぅ。…わぁ…ピンク綺麗…ありがとう。」
「なぁ。なんで袋入りはダメなんだ?味が違ったりするのか?」
「そうじゃないけど…袋ってキャラクターの絵が書いてあるでしょ?なんか子供みたいなんだもん…。」
「………ぷっ。」
代わりに受け取ったわた飴をあかりに差し出すと、納得いかない表情を浮かべながらもしぶしぶ手を伸ばす。
どう考えても今まで過ぎて来た店にあったものとの違いが分からず問いかけると、すぐに瞳を輝かせわた飴を見つめていたあかりがぼそぼそと呟いた。
今の表情はさっきからわた飴の袋を大喜びで持つ子供とたいして変わらず、思わず噴き出した。
「あ。笑ったー。私の事子供だと思ってる!」
「違う違う。全然、そんな事思ってないし。」
「思ってる!瑛くんはいつも子供扱いするもん!」
「そんな事…ほら、これ。ふわふわしてて甘くて―――ホントにあまっ!」
「……ぷっ。瑛くん焦りすぎ!」
せっかくここまで来てあかりの機嫌を損ねるのもまずいと一口摘まんで口に放り込む。
子供の時以来、久しぶりに感じるただの砂糖そのものの強烈な甘さに驚くと、やっと笑顔を見せるあかり。
「……笑いすぎ。」
「ぷ。…ごめんなさい。行こ?」
「…ん。」
差し出された手を再び握り、また港に向かって歩き出す。
その時、夜も更けて濃紺が広がる空に一つ目の花火が花のように開き、二人同時に顔を上げた。
03.ふわふわあまい