02.はぐれない方法

赤や青、色とりどりの水風船や、辺りに漂う焦げた醤油の香り。
すれ違う人々も皆が浴衣姿で、様々な色が明かりに照らされて浮かび上がり、ちょっとした色の洪水のようだ。

「…ほら。はぐれるぞ?」

「うん。」

人の波に呑まれないようにあかりに手を差し伸べる。触れた温もりを離さないようにぎゅっと握りしめ、待ち合わせの時に感じた言葉に出来ない感覚に気付いた。

「そっか。その浴衣、あの時のに似てるんだ。」

「ふふ。気がついた?瑛くんが気に入ってくれたのと同じ色を見つけたから買っちゃった。」

「あー…、そうだっけか?」

「うん。一年の時は浴衣だって言われただけだったけど、二年の時は似合うって言ってくれたよ?」

「そ…うだっけか?」

「そうなの。それでね?その時に今みたいにはぐれるからって手、繋いでくれた。」

「よく覚えてるな。」

「当たり前です。…嬉しかったんだもの。」

ぎゅっと握り返すあかりの言葉に、当時の事を思い出す。
最初の年は面倒だとか思っていた事も。
その次の年はなんとなく楽しみにしていた事も。
高校最後の年は、この次もこの先も、こうして二人で見に来られたらなんて思っていた事も。

周りが何も見えてなくて自分自身の事で精いっぱいで、余裕なんて何もなくて何も出来なかったくせに、何もかも出来た気になって、あかりをたくさん傷付けて泣かせて。
はぐれていたのは俺で、はぐれないようにと必死に手を繋いでいてくれていたのはあかりだった。

「こうしてたら…絶対はぐれないな。」

「でも、ちゃんと握ってなきゃ、だよ?」

「あかりはぼんやりだから危険だな。すーぐはぐれるもんな?」

「そんな事今まで一度もないでしょー?」

「……ぷっ。あはは。あ、リンゴ飴見っけ。ダイエットにどうだ?」

「もう!その手には乗りません!」

いつもこうやって俺を繋ぎとめていてくれるから俺が俺でいられる。この手が離れたら俺ではなくなる…そんな気がする。―――なんて、あかりには言わないけど。

拗ねた口調の割には笑顔を浮かべるあかりの手を引き、甘い香りを漂わせる出店に足を向けたのだった。


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