なんの意味もない会話さえ

誰もいない静かな朝の教室で、聞こえてくるのは二人が走らせるペンの音だけ。

本当なら向かい合っていたいんだけどさ、『これだったら誰かに見られても怪しまれないでしょ?』なんてあかりに言いくるめられて、お互いの席に着いて。
どちらも特に会話する事もなく、授業で当てられそうな所を予習している。

開けた窓から入ってくるのは、朝連している生徒の声と、太陽に暖められていない爽やかな風。
緩やかな風が、広げた教科書と俺とあかりの髪を揺らす。

「ねぇ、瑛くん。」
「ダメ。自分で考えないと覚えないんだから、教えない。」
「そんなんじゃないよ。でも、教えて欲しい事はあるんだよね〜」
「なにを?」

走らせるペンの音はそのままでそう問いかけるあかりに、思わず読んでいた教科書からその背中に目を向ける。

こっちがちゃんと聞き返してるのに、それきり続きのないあかりに少しイラッとしながらも、教科書に目を戻しながらもう一度聞きなおす。

「だから、なに?」
「瑛くんはさ、恋に落ちる音ってどんなのだと思う?」
「………は?」
「だからね?よく言うでしょ?恋に落ちる音がしたって。それって、どんな音なの?」

クルリと身体を俺に向けて、首を傾げながら覗き込む。俺が出す答えが待ち遠しいとでも言うように。

「そんなの、俺が知る訳ないだろ。」
「え〜?今、全然考えてなかったでしょ〜?ちょっとは考えてよ〜。」

ぷっと頬を膨らませたあかりが、ガタガタと机を揺らす。
そんなの、音なんてするわけないだろ。だって、俺はいつの間にかだったんだから。

いつの間にか傍にいて、それが心地よくて当たり前になってて……。

もう、お前が傍にいないなんて考えられなくて。

「つーかさ、その質問って勉強に関係あるのか?」
「ないよ?気になっただけだもん。」
「朝から勉強しようって言ったのはどこの誰だったかな?」

にこやかに笑って振り下ろした俺の右手を受け止めながら、慌てて首を振るあかり。

「暴力反対!チョップはなしで!」
「なんの意味もない事聞くお前が悪い。」
「だって〜!」
「だって〜じゃない。勉強しろ!今日は当てられるんだろ?」

『つまんないよ〜』と渋々前を向き、諦めたように教科書を捲りだすあかりの背中を見て一人口元を緩める。

ホント、こんな意味もない会話で心が弾むのはお前にだけなんだからな?

絶対教えてやらないけど。な。


なんの意味もない会話さえ
2008/11/03


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