それはほんのささいな事。
少し仲良くなった時も。
「ちょっ!佐伯くん!歩くの早いよ!」
「お前が遅いんだろ?……仕方ないな…。小指!小指だけだからな!」
他の誰か以上に近づいた時も。
「え?今なんて?」
「ほら!手!あーもう!そーいうのはさらっと流せよ!」
他の誰か以上の気持ちを知った時も。
「ふふっ、瑛くんの手って本当に暖かいよね?」
「カイロいらずだからいいだろ?間違っても、心が冷たい、とかじゃないからな?」
「誰もそんな事言ってないよ〜?」
近づく心と同じように、指先からゆっくり始まって、絡まって、離れられなくなって。
だけど……
押し潰されて溢れ出して、どうしようもなくなって。
一番大切だったはずのものを。
…その手を振りほどいて……。
楽になるかと思ったのにならなくて。
反対にそれだけが一番大切だった事に気がついて。
傍にいる。
手の触れる距離にいる。
それが一番だ、って単純な事にやっと気がついて。
もがいて、あがいて、追い掛けて。
やっと取り戻せた小さな…お前の手。
「どうかしたの?」
「…いや、お前の手だな、って思って。」
「なにそれ〜? 変なの。ず〜っと前から知ってるじゃない。もう何年になると思ってるの?」
「それは…、そうなんだけどさ。」
こうして当たり前のように繋いでいる事が、本当は当たり前じゃなくて。
お前がそれを当たり前にしてくれたんだって事、俺はきっと忘れないから。
あの日から、いや、ずっと以前から。
いつも俺に奇跡をくれてるって…絶対忘れないから。
そして、今日もいつものように手を繋いで。
……噛み締めるのは、ここにある幸せ。
いつものように手を繋いで
2009/01/30