いつも通りの幸せ

代わり映えのない毎日。違うのは毎日目にする海の顔。優しく包み込むような穏やかな波、時には何もかも壊してしまうような荒々しい波。刻一刻と姿を変える大好きな海を視界に映し、一歩ずつ俺を僕へと変えてゆき。
四角い箱庭の前に辿り着く頃には、すっかり仮面を貼り付ける。

尖って毒づく内心を隠し穏やかな笑みを浮かべた俺に取り巻く女子達を引き連れ、大きな苦痛と僅かな後悔を心の奥に押し込めて、無理矢理上から蓋をして。長い長い時間を過ごす。

自分から手を伸ばした…ただ、それしかないと思った道だけど、弱い心が時折顔を覗かせ押し潰されて手放しそうになる。

たった一つ、守りたいかけがえのない物を。

すべての物を投げうって手にしているのだから、それさえあれば幸せなはずなのに、自分の幸せはその先にしかないと感じていたはずなのに。いつからか、あれもこれもと欲張る俺。

一つは店。そして、もう一つは……。

「瑛くん?……もしかして、眠ってる…?」

中庭の一角。覆い隠すように繁った垣根のような、名前も知らない背丈の低い茂みに隠れて横たわる俺の隣にそっと腰を下ろすあかり。覗き込んでいるのか枝の合間から差し込む柔らかな光を遮断するのを閉じた瞼の裏側で感じる。

「まだ暖かいからって……風邪、引いちゃうよ…?」

細い指先が前髪を梳く。口調とは裏腹に、起こさぬように、そっと……優しく。その感触は甘く柔らかく、ささくれ立つ心を穏やかにする。何気なく、気負いもなく、傍にいて包み込んでくれるあかりの優しさに、甘えているのは心地がいい。

遠くに聞こえる生徒の笑い声、柔らかく降り注ぐ暖かな光、慈しむように触れてくれる指先と声。ほんの僅かな安らぎの時。

ああ……。これが幸せって事、か。

普通の高校生ならばしなくていい生活。

普通の高校生ならば出来たはずの生活。

普通の高校生じゃないから出来る生活。

でも、普通の高校生じゃないから……ほんの些細な幸せを噛み締められる。

潰されそうに…見失いそうになる度に、こうやって留まる事が出来るのは、繋ぎ留めてくれる指先があるから。柔らかく包み込んでくれる笑顔と声があるから。

………おまえがいるから。

おまえがいるから、まだ俺は俺でいられる。ここにいて、笑っていられる。ずっとおまえがいてくれるから。

そう、俺はいつも幸福に包まれている。
代わり映えなく毎日毎日。今日も明日も明後日も。いつも通り、いつもの毎日の中で。


いつも通りの幸せ

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