1.

はばたき市にはない街並み。
風情があるという文字がぴったりな、まるでタイムスリップでもしたような景色。
観光客で賑わっているのに立ち並ぶそれは静寂に満ちていて、なんとなく落ち着かなく辺りを見渡しながら真っ直ぐな道を歩んでいた。

「こら、落ち着きがなさすぎ。そんなにきょろきょろしたら田舎ものみたいだろ。」
「―――いたっ。だ、だって、こういうとこ来るの初めてだし、こういう建物とか見た事ないんだもん。それに色んなお店あるしっ。」
「確かに俺達の住んでるとこにはないものもたくさんある―――のはいいんだけどさ。」
「……さ?」

私の後頭部に落とした瑛くん十八番のチョップを首の後ろに回し盛大な溜息を吐き足を止める。
加減はしたのかもしれないけれど、身長差のある腕を下ろされた痛さに思わず膨らませた頬の空気を抜き私も同じように足を止めた。

「……おまえら、いったいいつまで着いて来るつもりだよ。もういいだろ、つーか、邪魔。」
「あいっかわらずのツンデレぶりだなー。羽学のプリンスサマは。」
「ウルサイ。いいから着いて来るな。」
「て、瑛くん。こうしてられるのはハリーのおかげなんだし、そんな風に言わなくても……。」
「お。さすがはあかり。どこぞのツンツン王子と違ってオレ様のありがたみをよーく分かってるよな?」
「あ、バカ針谷、気安く触るんじゃない!あー、もう行くぞ?」
「わっ?ええっ!?」

くるりと振り返った瑛くんの先には揚げた両手で頭を支えるように後頭部に回したハリーが店先を眺めてのんびりと歩いていた。
瑛くんの嫌そうな声に気付きニヤリと笑いながら近付き目の前で立ち止まり口を開く。
からかうようなハリーの声でますます瑛くんの機嫌が悪くなっていくのが分かり慌てて口を挟むと、反対に楽しそうなハリーの腕が伸び私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

その瞬間、これ以上になく眉を寄せ何かが降臨したような形相の瑛くんがハリーの手を振り払い私の手首をぐっと掴みそのまま強く引かれ、前のめりになりながら観光客の波の中に紛れ込んでいた。

いつも以上に早足の瑛くんに引きずられ、転ばないように気をつけながら慌てて振り返ると、置き去りにしたハリーはお腹を抱えて笑っていて、その隣に並んでいた苗字さんに頭を叩かれているのが観光客の波の間から見え隠れし、どんどんと小さくなりやがて見えなくなったのだった。


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