6.

「なんかさ…いい雰囲気だよな?もしかして、針谷の…か?」
「…わかんない。そういう事聞いた事ないし…。」
「ふーん。…そうだったらさ、なんか気が利くのもちょっと納得なんだけどな。」

顔に触れそうなほどに雑誌を近付け、ぼそぼそとハリー達には聞こえないように会話を交わす。

呟いた瑛くんの言葉の意味がさっぱり分からず、少しだけ顔を向けた。
いつもと変わらない独特な色の瞳。
何故か眉間にシワが寄っているのをぼんやり見つめていると、近すぎて文字も読めないページに目を向けていた瞳がちらと私に向けられる。

「……この場所、さっきから生徒が一度も通らないの、気付いてないのか?」
「……そういえば…。静かだから人気ないのかな?」
「バカ、そういう意味じゃないって。…あのさ、隣りは一般客の車両だろ?って事は、この先にはなにもない。どうせなら生徒の多い場所にいた方が騒げる。」
「あ、そっか。せっかくの修学旅行だもんね?」
「それと。向こうに立つと針谷は見えるけど…俺は?」
「…そういえば……、ここに来るまで瑛くんがいる事に気付かなかった…。」

そうなのだ。苗字さんに連れられてここまで来る最中、この車両に入った途端急に生徒の数が減り歩きやすくなってて。この座席より3つほど手前から車両の一番端の通路側には誰も座っていないのが見えた。そしてここに来て初めて瑛くんが座っている事に気付いたんだ。

……と、言う事は、3つぐらい手前からはハリーを見つける事は出来るだろうけど、背中を向けている瑛くんには誰も気がつかない。

―――ここまで探しに来ない限り。

「すごい……ハリーって…もしかして頭いい?」
「そこ、なんだよ。あいつにしては気が利きすぎてるんだ。絶対針谷だけの考えじゃないって。」
「…苗字さんが考えたってこと?」
「たぶんな。さっきはマズイって思ったけど…これは…なかなか使えるかも。」

視線をまた読めないページに戻す瑛くんの瞳と唇が綺麗な笑みで形作られる。
それは面白くて笑うというよりも何かを企んでいる時のようなちょっと嫌な微笑みで、なぜか昨日の瑛くんを思い出した。

苗字さんの事は予定外だったんだろうけど、この事を言ってたんだ、きっと。
ハリーもさっき言ってたし…夜中に一方的に―――って。



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