5.

「あかりちゃんもはい、どうぞ?…って…いいかなぁ?名前で呼んでも…。」
「あ、ありがとう。名前はいいんだけど……なんか、すごく手慣れてるね?びっくりしちゃった。」
「え?―――ああ、今の。…私、ね?バイト先がハリーと同じなの。ハリーが友達とこういう感じだったからいつもの癖で……。」

「やっちゃった」と照れ臭そうに舌を出す苗字さんから、差し出される瑛くん達と同じお菓子を受け取り、自分もお返しにと再び下ろしてもらった荷物から小さいバックを取り出し中を覗き込む。

隣で眺めていた瑛くんがキャンディの袋を見つけ、当たり前のように腕を伸ばしひょいと取り出した。

「あ、見た事ない飴じゃねーか。どれどれ―――?」
「……針谷。行儀悪い。」
「なんだよ、佐伯だって同じだろーが。それより、オレ様はハリーだ。ハリーって呼べ。」
「ヤだ。」

相変わらず仲がいいのか悪いのか、さっきまで睨み合っていた二人が一つの袋に仲良く手を突っ込みじゃれあっているように見える。

他の生徒達もいる新幹線の中だという事を忘れているのか、瑛くんはほとんど素に戻っていて、釘を指した方がいいのか少し悩み、前に座る苗字さんにこっそり目を向ける。

いつもの佐伯くんと違う事に気付いていないのか気にしていないのか、流れる景色に目を輝かせ窓の外を眺めている苗字さんに、今日くらいはいいかもと私も窓の外、はばたき市とは違いはじめた景色を眺めた。

「うわっ!今、すっげぇいいフレーズが浮かんだのによ。ッあー!今すぐギター触りてぇ!なんでここにねぇんだよ!」
「んー?じゃあ、私の携帯使う?ギターのアプリあるから。」
「なにそれ。うわっ、オマエ、そんなの持ってんのか!」
「うん。本物には敵わないと思うけど、雰囲気は残せるんじゃないかな?はい、イヤホン。ここをね……?」
「お、すげぇ。へぇー…結構イイ音でんじゃんか。オレ様のギターには敵わねぇけどよ。」

私と苗字さんが持ち寄ったお菓子を散々突き回し、代わり映えのない流れる景色にも飽き、それぞれがのんびりとし始めた頃、突然のハリーの叫びに驚いて二人の座席の間に広げたガイドブックに落としていた顔を上げた。

しばらく下を向いていたため、なにが起きたか分からない私と瑛くんをよそに、なんとなく自然な空気が漂う二人が、苗字さんの携帯を覗き込み、あれこれとギターのコードらしい会話を続けている。

こつりと肘に当たる瑛くんの肘になんだろうと顔を向けると、肘当てに置いたガイドブックを取り、広げたままで顔の高さに上げ身体を斜めに傾けて頬が触れそうなほどに顔を寄せてきた。



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