4.

「んだよ。豆鉄砲くらったツラしやがって。せっかく、この、ハリー様が、気を利かせてやったのによ。」
「だ、だって…朝は一言も……。」
「昨日は夜中に佐伯が電話してきて何とかしろなんて一方的に切りやがるし、今朝はあかりがツマンネーって顔してっから、仕方なくコイツをだなー。あ、コイツなら大丈夫。ベラベラ口の軽いヤツじゃねーから心配すんな?」

二人分の視線が集中したのが気に入らなかったのか、ふて腐れたハリーが肘当てに頬杖をつく。口ごもる私と、少し警戒心を見せる瑛くんを見比べ、隣に座る女の子を握った手の親指を立て指した。

「私はコイツじゃありません。あ、私、苗字名前です。ほとんど初めましてなのに馴れ馴れしくてごめんね?実は理由をよく分かってないんだけど、とりあえず口は堅いから安心して?」

ぺちりとそれを払いのけ、ぺこりと頭を下げる彼女。上げた顔に浮かぶ笑顔は警戒心が消えるほど本当に人懐っこく社交的に見える。
それに、ある意味瑛くんと似ているハリーのそばにいるのだからきっとハリーの言う通りの人で心配する必要はないのだろうけれど、瑛くんはそう感じないかもしれないと横顔に顔を向けた。

女の子には目もくれずハリーをじっと見つめる瑛くんが、小さく細く息を吐き出す。次の瞬間浮かべた完璧な優等生スマイルとぴくりと僅かに揺らした右肩が、瑛くんの静かな怒りを物語っていて思わず身を固くさせた。

「………針谷くん?彼女が海野さんを連れてくるなら最初から言ってくれないと。……びっくりするだろう?」
「バッカじゃねーの?あんな女だらけの中で言ってみ?どうなるかはオマエの方が―――って!イッテーー!だろ!!」
「バッカじゃねーの?はきみ。僕をここに連れてくるまでに時間はあったよね?その間に話せるよね?って言ってるんだけど?」

踏ん反り返ったハリーの頭に、素早く振り下ろされた瑛くんのチョップが落ちる。
嫌みを言いながらにっこりと満面の笑みを浮かべる瑛くんの顔は、絶対に本気では笑ってないし、そのままにされたチョップの角度はきっちりと斜め45度で、さぞかしハリーは痛かっただろうと、自分がされたわけでもないのに思わず頭をさすった。

「佐伯……テメェ……。」
「……なにかな?針谷くん。」
「テメェ…喧嘩売ってるだろ…。」
「心外だな。僕はただ、ちょっと残念な針谷くんの頭を活性化してあげようとしただけなんだけど?」
「……佐伯……。」
「はいはーい。ちゃんと説明してないハリーの負けー。佐伯くんが言う事の方が正論だよ?…って事でおしまいー。はい、みなさんお菓子をどうぞ?」

ぴりっとした一触即発の空気と睨みあう二人の間に、ずいと苗字さんの腕が割り込み、持っていた箱からスティックタイプのお菓子が入った袋を取り出し二人に押しつける。

少し強引ともいえる行動に毒気を抜かれたのか一瞬で険悪な空気が消え受け取る姿に、ホッと胸を撫で下ろしながらも鮮やかな手際だと感心し、苗字さんを見つめた。



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